第222話佐保と鎌倉香料店取材(3)

文字数 1,316文字

「お待ちしておりました」
美里は、香料店に到着した麗と佐保に、深くお辞儀。

佐保が顔をあげた美里に声をかける。
「いえいえ、こちらが取材なので、よろしくお願いいたします」

麗は、無表情で、「よろしくお願いします、いろいろと教えてください」とだけ。
その声も、実に冷ややかな響き、佐保は少し慌てている。

美里は、少々の違和感を覚えながら、それでも店の応接に麗と佐保を誘導する。
その応接には、瞳が待っていた。
「ようこそ、お待ちしておりました」
と、美里と同じように深くお辞儀、佐保もお辞儀を返して、取材が始まった。

佐保
「よくお知りの麗君を連れて来ました」
瞳は笑顔。
「はい、ありがとうございます。こちらも安心です」
「香料に関しましては、麗様のほうが、よほど」
麗は、まだ何も話さない。
ただ、真面目な顔で、何かを考えている雰囲気。

美里が、その顔を赤らめて、お茶を出す。
麗は、ようやく美里に反応。
「ありがとうございます」
しかし、それだけ、何も見ることはない。

佐保は、麗の「塩反応」に呆れるけれど、それでも取材を進めなければならない。
「店の歴史、置いてある香料類の種類」
「最近の流行、試していただきたい香料」
等、事前に準備した項目に沿って、質問をする。

麗は、瞳が答えた内容を、取材ノートに美しい筆跡で書きこんでいる。

文章として載せるべき項目が終わったので、佐保が美里を伴っての写真撮影になった。
写真については、麗の専門外になるので、まだ応接に残る。

瞳が、麗に頭を下げた。
「麗様、わざわざ、ありがとうございます」
麗は、少し顔をやわらげた。
「特に女性誌の記事なので、これから文章を、購読者に合うように考えます」
「その経験がないので、難しいけれど」

瞳は、麗の率直な言い方を、好ましいと思う。
そして、麗の顔色の変化に気づいていた。
「麗様、顔色が、この前よりも、よくなりました」
麗は、少し恥ずかしそうな顔。
「はい、京都の九条家に行ってから、少し食べ過ぎなくらいで」
「体重が増えてしまって」
瞳は首を横に振る。
「いえいえ、麗様、まだまだ痩せ型です」
「この前は、本当に心配しましたもの」

麗は、少し考えて、話題を変えた。
「僕が持っている香料の知識は、源氏とか古典の知識と、香料店の晃さんから教わったもの」
「強いて言えば、学問的な知識」
「その意味で、実際に販売をされている瞳さんとか、美里さんのほうが、現実を知る部分があります」

瞳は、麗の真面目な話しぶりを、真面目に聴く。
「麗様、何か感じておられることがあるのですか?」

麗は、また真面目な顔。
「高校生の時は、それほど気にしなかったけれど・・・」
「大学までの往復の電車で、あるいは講義を聴く教室で」
「実に、様々な香りがあふれていて」
「それも、品のない香りが多い」
「少し、香りのつけ方をわきまえていない人が多いのでは?」

写真撮影を終えた佐保と美里が応接に戻って来た。
そして、真面目な顔で考え込む瞳と麗を見て、首を傾げる。

佐保
「麗君、何かあったの?」
美里は、母の瞳に尋ねる。
「難しい顔になっているけど?」
瞳は真面目な顔のまま。
「麗様が、貴重なお言葉を」

麗は、美里を手招き。
美里は、途端に顔が真っ赤。
その胸をおさえながら、麗の隣に座った。
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