第419話母に供える地蔵菩薩の話 社家町の鈴村屋敷に向かう

文字数 1,191文字

昼食の後、麗は三条執事長に石仏製作業者について、相談をかけた。

「鈴村八重子様の承諾も必要と思われるのですが、母の墓に小さな地蔵菩薩の石仏を供えたくて」
三条執事長は大きく頷く。
「反対はされんと思います、むしろ、お喜びに」
「実の子供からの想いを断る親などおりません」

「名前を書いて、それを彫ってもらうことも」
三条執事長
「はい、それもお母様も八重子様もお喜びに」
「早速、長い付き合いの業者には手配をしておきます」
「来週のお戻りには、サンプルを」

そんな相談の後、麗は可奈子、葉子を伴い、三条執事長の運転で祖母鈴村八重子の屋敷に向かう。
遠縁でもあり可奈子が説明。
「上賀茂の社家町になります」
「代々、神職のお住宅が集まる地域」

麗は、そこまでは知っているので、聞き流す。
ただ、祖母も京都人の中でも、相当な名家であると理解する。
そうでなければ、歴史の古い香料店に娘を勤めさせることもできない。
また、可奈子とて、九条家のお世話係として採用される以上は、関係筋に次ぐ名家。

三条執事長の運転する黒ベンツは、社家町に入った。
三条執事長が説明をする。
「上賀茂の社家町は、明神川と呼ばれる小川に並んでおります」
「この明神川は、上賀茂神社の境内を流れる、ならの小川から注いいて、神水の川」
「神社の境内から出ると、明神川と名を変えます」
「それぞれの家の敷地内に明神川の水を引き込んで、生活用水や庭園の遣水、そして身を清める禊の水として利用してきました」

麗は車窓から外を見る。
「観光客も多くて、確かに風情のある街で」
「世界遺産ということもあるけれど」

三条執事長
「庭園を見学できるお屋敷もあります」
「見事な庭園で、人気となっております」

麗は少し考える。
「まあ、それは、そのお屋敷で決めること」
「他のお屋敷に迷惑をかけない範囲なら」

可奈子が麗の言葉に反応。
「麗様のお言葉、ようわかります」
「日本人だけなら、まあ、わかってくれはりますが・・・」
「異国の方は・・・申し訳ないですが・・・この良さがわからん人も多いようで」
「ゴミとかガムとか、大騒ぎとか」
「何しろ、団体旅行の大人数で」

麗は難しい顔。
「観光と市民生活の両立・・・かな」
「市民が観光客に遠慮したり迷惑かけられながらの生活も辛い」
「そうかといって、観光客は大きな収入源」
「SNSで一度悪い評判が立てば、一斉に来なくなることもある」

三条執事長
「その通りです、悩みの種です」
「金のために、どこまで犠牲を払うんかと、嫌になる時もあります」

麗は、黒ベンツが低速になったので、話をまとめた。
「明日の政治家にも考えを聞いてみます」
「まあ、市民生活を犠牲にしてまでも、観光優先はしたくないけれど」

黒ベンツが徐行に変わる。
三条執事長
「あそこです、鈴村様、立っておられます」
「ほんま、うれしそうなお顔で」

黒ベンツは、鈴村の屋敷の前で停車。
麗は車から降り、祖母鈴村八重子の前に立った。
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