第152話九条家の湯女の意味

文字数 1,141文字

九条家の朝食は、朝粥だった。
麗が子供の頃に晃叔父に連れていかれて、食べたことのある名店と同じ味。
米や水、全ての素材が素晴らしく滋味にあふれ、調理方法も丁寧を尽くしてある。

麗は、実に感動する。
「とても関東では出せない味」
「やはり食は関西になる」
「どうしても富士山の周囲の土地は、滋味に乏しい」
「人間性はひどい京都になるけれど、料理は確か」

しかし、感動したからといって、それほど食が進むわけではない。
やはり、普段、朝食を取らないので、胃が食べ物を簡単には受け付けない。

その麗に茜が声をかける。
「麗ちゃん、口に合わない?」
五月も心配そうな顔。
「そこまで食が遅いと不安や、料理人にも言わんと」
麗は首を横に振る。
「いえ、美味しいと思います」
「ただ、味は間違いありません、もともと食べるのが遅いだけ」

それでも、何とか目の前の朝食を食べきった麗は、大旦那に呼ばれた。
大旦那
「どや、よう眠れた?」

「はい、お陰様で、ぐっすりと」
大旦那はうれしそう。
「ようやく一つ屋根で、安心した」

「寝やすいベッドで、すぐに眠りに入りました」

大旦那が、含み笑い。
「風呂場に忍び込んだ娘は?」
麗は落ち着いている。
「いや、自分の身体など、自分で洗えばいいと」
「誰かが来ましたが、お断りを」

大旦那は頷く。
「まあ、葉子やから、心配はないけどな」
「でも、麗らしいな、慎重や、それでええ」
麗は、大旦那に尋ねた。
「名前まで知っておられた?」

大旦那
「ああ、鷹司から相談されて、葉子ならと、答えておいた」
「湯女は、ここの屋敷の伝統の一つ」
麗は大旦那の表情を見る。

大旦那は、真面目に頷く。
「ああ、それで男を、人を見る」
「つまりだらしない男か、そうでないかとな」
「女にだらしない男は、嘘をつく」
「嘘をつく男は、信用せん」
「ただ、秘密を握って、操り人形にすることは出来る」

麗は、いろいろ考える。
「試したんですか?」
大旦那は、また含み笑い。
「わしには結果は麗やから見えとった、ただ、鷹司は焦った」
「それでも葉子の名を出したのは、万が一に麗が背中を流させても、問題の無い娘やったからや」
「それもこれも、無駄な試みやったけど」

麗は機嫌が悪い。
「こんな試しが続くのですか?」
大旦那は余裕。
「まあ、わしが許さなければ、それはない」
「麗が欲しければ、麗が呼んでもかまわない」
そして麗に諭す。
「他所の得体の知れない商売女で、粗相をされるより安心や」
「このお屋敷の女なら、口が堅いし、素性も確かや」
「既に九条麗や、下手な評判は困る」

麗は、ますます機嫌が悪い。
「湯女など、そもそも不要」
「不要なものに、神経を使いたくない」
「九条麗として、慎重になるのは当然だけど、俺はそもそも地味で、そんな浮ついたことは嫌いだ」
麗は、そう思った時点で、黙り込んでしまった。
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