第317話高橋麻央と麗の会話は自然 葵は少し嫉妬

文字数 1,425文字

麗は、すんなりと高橋麻央と一緒に古典文化研究室に向かって歩き出す。
葵も、少し慌てるけれど、すぐに麗の考えを感じ取る。
麗の耳元で「蘭ちゃんのお礼ですか?」とささやくと、麗は頷く。
「日向先生と高橋先生のご尽力がなければ、蘭は途方に暮れていた」

そんな状態で、古典文化研究室に入ると、麗はまず高橋麻央に感謝の意を伝える。
「本当に蘭の転入につきましては、お世話になりました」
「もう少し落ち着きましたら、蘭と一緒にお礼をさせていただきます」

高橋麻央は、うれしそうに首を横に振る。
「いえいえ、麗君には、私も佐保も、本当にお世話になって」
「仕事から書籍出版まで、どれほど力づけてもらっているか」
「それを考えれば、たいしたことではなくて」

葵も、高橋麻央と佐保の姉妹の仕事は、九条財団に直結していることは把握している。
「麻央先生の新著は麗様と共同執筆」
「佐保さんは、来週から九条財団のカメラマンに」

麗は、やわらかな顔で、話を続ける。
「高橋先生にも日向先生にも、また新たな九条の仕事をお願いするようになります」
「講演、執筆、様々、お願いしたくて」
「佐保さんには、また私から連絡しますが」

葵は、麗の考えを、また感じ取る。
「麗様、ホームページの写真とかなのですか?」

麗は、頷く。
「それは当然、京都の写真集もいずれ」

高橋麻央は、またうれしそうな顔。
「あらあら、九条様のホームページの写真と、京都の写真集まで?」
「佐保も、気合が入るね、のんびりも出来なくて」
「本当にありがたいなあ、麗君」

麗は、首を横に振る。
「いえ、あの日にかくまってもらって、三井さんから助けてもらいました」
「二人とも、命の恩人で、まだまだお礼はし尽くせません」

葵は、そんな高橋麻央と麗の会話を聞きながら、感じるものがある。
「麗様の顔が、私たち、京都の人に対している時よりは、やわらかい」
「慎重な物言いは変わらないけれど、取り繕ってはいない」
「京都の時は、説得力はある、だから皆、感心して従う」
「都内では普段着の麗様、京都や京都人に対する場合は、スーツを着た仕事の麗様なのか」

お昼も終わり、高橋麻央。
「お礼となれば大学でもいいし、実家の自由が丘でも、日向先生の鎌倉でもいいかな」
「お待ちしております」
麗は、やさしい顔で頭を下げる。
「はい、不出来な蘭ですが、よろしくお願いします」

高橋麻央
「麗君はこれから?」
麗の答えも自然。
「はい、西洋史の佐藤先生と神保町で話を」
高橋麻央は、また笑う。
「あらーーー!面白い、佐藤先生?私も好きなの」
「後で教えてね」
麗は、珍しくクスッと笑う。
「同じ文学部の教授では?」
高橋麻央は、麗の手を握る。
「いや、麗君から聞きたいの」

古典文化研究室での昼食を兼ねた話は、それで終わった。
麗と葵は、再び高橋麻央に頭を下げ、部室を出て、神保町に向かうため、歩き出す。
京王線に乗った時点で、麗は、葵に申し訳なさそうな顔。
「ごめんなさい、会話に参加しづらかったでしょう」

葵は、図星を言われたけれど、そのまま「はい、その通り」とも言いづらい。
会話そのものよりも、麗が「自然な顔」で高橋麻央とで話をしているほうが、少し辛い。
少なくとも、自分を含めて京都人に対するよりは、心を開いているし、その証拠として顔がやわらかい。
「うちは・・・少し・・・辛いかな・・・嫉妬かな」
「でも、嫉妬以前や、まだ、そこまで麗様はうちへの思いも信頼もない?」

それを思って涙ぐむと、麗は気づいたようだ。
そのまま、葵の手を握っている。
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