第45話麗の困惑

文字数 891文字

桃香の唇が離れたので、麗はようやく言葉が出せる。
「桃ちゃん、相談ってこれ?」

桃は、麗の胸をなでる。
「いや、そうやない、そんな甘いもんやない」


桃香は、麗の胸に顔を埋めた。
「なあ、一緒に住みたい」
「どうかな」

麗は、困る。
「それは・・・結婚しているわけではないし」
「親とかにも言わないと、桃ちゃんのご両親にも」

桃香は、その麗の言葉を逆手に取る。
「じゃあ、親が納得すればいいの?」
「男女の仲は、そういうもの?」
「麗ちゃんと、うちで決める話やろ?」


桃香は、また強く身体を押し付ける。
「時期の問題だけや、麗ちゃんのご両親も、うちの親も反対はしない」

そして、麗には不思議なことを言う。
「なあ、そのほうが、麗ちゃんには幸せ、もちろん、うちも幸せ」

麗は、桃香に聞く。
「桃ちゃん、そのほうって何?」

桃香は、少し言いづらそう。
「うちは知っとるもん、麗ちゃん」
麗は、不安を覚える。
「知ってるって・・・何を・・・」

桃香の声が小さくなった。
「九条の大旦那様と茜さん・・・に逢うんやろ?」
桃香の声は、震えている。

麗は、ドキッとした。
「桃ちゃん、何で知っている?」

桃香の答えは端的。
「香苗さんにも電話があった」
「おそらく麗ちゃんのご実家にも」

麗は、実に不愉快となった。
「俺は、連休の時期に九条の大旦那様と茜さんに逢うってだけ」
「内容なんて知らない、大事な話は直接にってだけ」
「それなのに、周囲が何故?」

桃香は、腕を麗に絡める。
「それは、うちもはっきりはわからん・・・ただ、なんとなく・・・そう思う」
「大人の事情と、香苗さんには言われたし」
「そうなると詳しい事情は、知るのは大人世代・・・そして茜さんかな」

少し間があった。
「香苗さんには、麗君の健康管理を重々と」
「まあ、それは仕方ないけれど」

麗はここで、叔父晃の言葉を思い出した。
「麗様」との子供の頃の言い方、その叔父晃が九条様の指示を受けて、麗との面会を仲介する。

桃香は、足も麗に絡めて来た。
そして、驚くべきことを言う。
「あのな、麗ちゃんのご実家の跡取り、麗ちゃんの従兄の隆さん・・・癌やで」
「あと、一月・・・持つか・・・どうか・・・」

麗の顔に、強い困惑が浮かぶ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み