第386話銀行頭取の娘直美と麗の面談(2)

文字数 1,237文字

麗は、慎重に直美に答えた。
「まだまだ、というか、もう少し考えなければならない話です」
「ご存知の通り、石仏の会議もあります」
「あの調査も、京の人に、なるべく負担をかけないようにと、おとなしく進める必要があるので」

直美も、それを言われては納得。
「ようわかります、お忙しいと思いながらも、ついご一緒したくて」

麗は、顔をやわらげた。
「直美さんの京を思う気持ちは、よくわかります」
「ありがたいことです、また折を見て、落ち着いたら話を進めましょう」

直美は、そんな麗を見て思った。
「やはり、壁は堅い」
「でも、何も考えてもらえない、そうではない」
「実は、頭の中は、グルグルとあちこちを考えていて、出来る限りの返事をしてくれる」
「ほんと、忙しい麗様に、無理難題とは思うたけど」
「実は、頼りになる男」
「受けるは軽くて、中身がない京都の男連中とは違う」
「必ず結果を出してくれる人かな」

また、ゆっくりとお茶を飲む麗が、実に魅力がある。
「その顔の可愛らしさと、美しさが、絶妙」
「一つ一つの所作も、きれいで無駄がない」
「だから、話をするたびに、一緒に動くたびに、引き付けられる」
「財団の葵さんも、不動産の麻友さんも、心奪われとるし」
「あの学園の詩織さんまで、本音を見抜かれて、完全にコロリ状態」

しかし、直美は、自分に自信がそれほど持てない。
「麗様を笑顔にさせるような、楽しい話にできない」
「どうしても固い話やなあ」
「こんなやと、キチンとしたお嬢さんで終わってしまう」

意外なことに、麗が話題を変えた。
「直美さんは、何かご趣味は?」

直美は慌てた。
「あ・・・はい・・・一応、お習い事は・・・茶道と華道・・・」
とまでは出たけれど、とても趣味と言えるものではない。
「映画と読書、音楽を聴くぐらいで」
と、ようやく趣味らしいことを口にする。

麗は、やわらかな顔のまま、頷く。
「何か、飽きずに取り組めるものがあると、面白いでしょうね」
「映画も読書も、音楽も奥が深いですし」

逆に直美が聞きたくなった。
「麗様は、ご趣味は?」

麗は、苦笑。
「いや、とてもとても・・・」
「やることが目白押しで」
「浅学非才を嘆きたくなります」

直美は、強く首を横に振る。
「いや、麗様の、あふれる才能があるから、こなされていると思います」
「あの財団に書かれた式子内親王様の御歌のブログ」
「うちは、何度も読み返して、内親王様の心を思いますもの」
「あんな文をかけるのは麗様だから」
「その麗様を目の前にして、ほんま幸せで」

麗は、恥ずかしそうな顔。
「喜んでいただいて、恐縮です」
「まだまだ、至らぬ点が多くて」

そして直美から、視線を庭に向けた。
「あれが趣味なら気楽で、面白いけれど」

直美は、麗の「辛さ」を感じた。
本当に、いろんな重荷を背負っている、と思う。
お気楽なバカ騒ぎを繰り返す男子大学生も見かけるけれど、麗はそんなことの一つもできないし、その立場にある。

「何とか、支えたい、もう少し楽にさせてあげたい」
直美は、そう思い、視線を麗から外せなくなってしまった。
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