第193話直美の想い 麗は息苦しさを感じる。

文字数 1,291文字

直美は麗に抱かれ、また抱きながら涙が止まらない。
「はぁ・・・最高や・・・天国や」
「こんな幸せが一週間・・・」
「麗様は、誠実にうちを可愛がってくれる」

少しの不安もある。
「一週間終わって待ち遠しくなるやろか」
「次の子のほうが、うちより良かったら・・・どないしよ」
「うちは焦る・・・」

しかし、その不安も続かない。
「感じ過ぎて・・・何もわからん」
「それに女の子が多すぎて・・・麗様も・・・」
「今はわけがわからん、当たり前や」
「とにかく、全員が一回りしないと」

情事が終わっても、直美は麗を離さない。
また麗も抵抗はしない。
柔らかく直美を抱き、髪の毛を撫でる。

その麗に直美は、ますます魅了される。
「麗様はやさしい」
「自分の気が済めばほったらかしの男やない」
「落ち着ける人や」
「惚れた、マジで」

麗は直美の呼吸が静かになるのを待ち、眠りについた。

朝になった。
「はぁ・・・少しまだ、腰が震えます」
と言いながら、直美の動きはスムーズ。
二人分の着替えをサッと済ませ、早速朝食づくりを始めている。

直美の嬉々として動く姿を見て、麗は思った。
「これは九条家のお世話係の伝統なのか」
「大旦那も、俺の父も、こんな世話を受け」
「歴史も古いかもしれない」
「平安期から・・・召人とか、女房とかの歴史か」
「技術も含めてなのかもしれない」

「そうなると、今の時代の善悪ではない」
麗は、考えを変えないといけないと思う。
確かに現代の日本は、一夫一婦制。
それを基準にすれば、夫や妻以外との交情は、ルールに反する行為、つまり不倫とみなされ、断罪を受けることになる。
しかし、その一夫一婦制が定着したのは、およそ明治期以降。
それまでの日本は、一夫多妻制が長らく続いていた。
特に、皇室や、高位の貴族であった九条家にとっては、それがルールだった。
仮に一夫一婦制とした場合に、子供が生まれなかった場合に、その家は断絶する。
その上、男子相続がルールとなっている場合は、特に条件が厳しくなる。
男子が生まれないだけで、その家が断絶するのだから、その家をあてにしていた人々まで、途方に暮れることになる。
現代のように医療が充実しているわけではなく、疫病で死ぬ場合もある。
あるいは政治抗争に巻き込まれて、隠密裏に毒殺をされることもある。
それを考えれば、その家にとって、その家を頼りにする家にとっても、正妻に男子が生まれない場合には、妾に男子を生ませることは、家を守り自らを守るための手段になるし、その手段を取らないことは、危険極まりないことになる。

「俺も、そんな家のための子供なのか」
麗は、どうにもならない現実を思う。
恵理と宗雄と、鷹司、そして共謀した嘘つき医師に殺された母も、そんな妾の一人なのだと思う。
しかし、そんな妾の子供であっても、直系男子が麗一人であるため、大旦那は伝統ある九条家の後継者として認めた、いや、認めるしかなかった。

「そして、俺も、今度は、そんな家のための子供を・・・男子を産んでもらうのか」
「まずは家の存続のため、男と女の恋愛感情よりも上にそれがある」
麗は、またしても頭の上に、大きな岩盤が乗ったような重苦しさと息苦しさを感じている。
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