第17話麗は桃香と長話、麗は桃香に叱られ、泣かれる。

文字数 1,366文字

桃香の話は、かなり長い。
次に、麗が既に関心を失っている日向先生と高橋麻央の源氏に話題が移る。

「なあ、麗ちゃん、マジで源氏とかやるん?」
「あの若い方の女先生はともかく、日向先生は超有名人やで?」
「そんな先生に将来有望なんて言われてご相伴なんて、麗ちゃんなら当たり前やけど、光栄や」

麗はようやく話題がマトモになったと正気を取り戻す。
「ああ、それは社交辞令に過ぎない」
「たまたま、先生方の目にとまって、断りづらくてご相伴しただけ」
「明日からは付き合う気はないよ」
「なんか偉い先生と言われても、得体が知れないしさ」
桃香が珍しく、フンフンと聞き役になっている。

麗は、もう少し言葉を続ける。
「源氏をやると、母さんの実家の話も出るだろうしさ」
「そうなると、ますます逃げづらくなる」
「大学入学して、約二週間でね」
「まだ他の学問も始めたばかり」
「何が何でも日本文化とか古典に縛られるとか、それに専念するとか、決めつけることもないだろうとね」

桃香は頷く。
「それはそうやなあ・・・麗ちゃんには別の才能があるかもしれんしな」
「たまたま、実力発揮して見つかってしまって、連れ込まれたって感じやね」
「麗ちゃんは、地味でおっとりだから、自分の意見を通せずか・・・」
「贅沢なようで・・・本意ではない・・・か・・・」

麗は、難しい顔。
「日向先生は御縁とか言ったけれど、過去の勉強とか香料屋の流れとか、あまりどうかなと思う、俺には過去に起因するものだしさ」
「あまり、こだわりたくないんだ、そういうの」

そこで桃香が、少し嫌そうな顔。
「じゃあ、うちのことは?こだわらんの?」

麗は、桃香の話の飛躍に焦る。
「いや・・・その・・・桃ちゃんじゃない」
「言っているのは、源氏に絡んだ話のこと」
「桃ちゃんにこだわりたくないなんて、言わないよ、そんなの」

桃香は、まだ目がきつい。
そしてまた、文句を言い始めた。
「なあ。麗ちゃん。ちゃんと聞いて」
「うちはな、麗ちゃんがメチャ心配なんや」
「香苗さんに言われなくても、麗ちゃんとわかった時点で、押しかける決心やった」
「その意味わかる?」
麗は、また桃香に押され始める。

桃香は詰問調に変わる。
「マジで青白い顔」
「気合いというものを感じない、覇気がない」
「源氏の話もそうや、先生方に質問されても、知っていることの半分も話しとらん」
「麗ちゃん、あれは手抜き?実はメチャ詳しいやろ?」
「香料屋の先々代も舌を巻いてたくらいやないか」
「料亭の玄関の侍従やてそうや、普通の人なら気にもとめない複雑な調合」
「まあ、麗君のもともとの、ご実家の品やけどな」

麗は桃香を見て思った。
「桃ちゃん、何だかんだと言いながら、話が混乱してきた」
「まあ、子供の頃もそうだったけれど、全く性格が変わっていない」
ちらっと時計を見ると、午後10時半を過ぎている。

麗は、文句を言い続ける桃香の息継ぎタイムを狙った。
「桃ちゃん、そろそろ・・・10時半、香苗さんが心配するよ」
つまり「お引き取りに」との意思表示。

桃香は、ハッとした顔で、立ち上がった。
「しゃあない、今日のところはこれで許してあげる」
「でも、いつか突然押しかける、覚悟して」

麗が頷くと、桃香は思いっきりむしゃぶりついてきた。
そして、5分ぐらい、メソメソと麗の胸で泣き、グジュグジュ声で。「麗ちゃん・・・」と言い終えて帰って行った。
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