第377話古今和歌集勉強会の構想

文字数 1,114文字

翌土曜日の早朝、麗と涼香は品川駅から新幹線に乗車。
定例のようで、花園美幸と葵も向かい合わせで座る。
ただ、麗は会釈しただけ、読書に没頭。
それでも気になった美幸が麗に質問。
「麗様、ところで何の御本を?」
麗は、隠す気持ちはないようで、「古今和歌集を」と答える。
やはり、午後に面会をする「祖母」鈴村八重子が、古今和歌集の大家であることを意識している。

葵は、そんな麗を見ながら、内心は不安。
「ほんま、あれやこれやと、急に言われて」
「高橋先生と源氏の共著、古今和歌集の新しい現代語訳、それから石仏調査」
「それがなくても、九条家の次席理事は大変なのに」

花園美幸も、うつむいて再び古今和歌集を読みふける麗の顔を見る。
「とにかく我慢強い麗ちゃんや」
「でもなあ・・・いつか身体を壊す」
「お世話係さんがいるから、ひどくはならんと思うけど」
「いなかったら、とっくに倒れとる」

新幹線も浜松に近くなった頃、麗は顔をあげた。
そして、困ったような顔。
「とても覚えきれません、少し恥ずかしいけれど」

涼香は驚いた。
「麗様、古今和歌集を全部暗記しようと?」

麗は、少し笑う。
「確か、清少納言が枕草紙で、書いていたような」
「当時の宮仕えの女房たちは、競って暗記したとか」
「全部で1,111首、仮名序と真名序は別にして」
「覚えられないかなあとか」
「それが進みません」

驚いて声も出ない美幸、葵、涼香に、麗は続けた。
「枕草子、源氏物語、紫式部日記、新古今和歌集とか、古今和歌集の歌を知らないと理解が浅くなります」

花園美幸は恥ずかしそうな顔。
「これが古今の歌と教えられて、ああそうかなあ程度で、マジに理系なので」
葵は真面目な顔。
「うちも、もう一度読みなおすかなあ、これは反省します」
涼香は、少し考えた。
「九条のお屋敷で、勉強会をしましょう」

その涼香の言葉に、麗が驚いたような顔。
「ああ、それは・・・面白いかもしれない」
その言葉も、力強い。
そして、涼香に感謝。
「今、妙案が浮かびました、本当にありがとう」

花園美幸は首を傾げるけれど、葵は気がついたらしい。
「麗様、もしかして?」

麗は、深く頷く。
「定例で、お屋敷かな」
「あるいはオンラインで、九条家関係者を対象に」
「希望者を募って」

葵が、まず手を上げた。
「うち、参加申込します」
「定例でもオンラインでも」
涼香も続く。
「当たり前です、こんな面白い話」
美幸も、こうなると参加するしかない。
「わかりました、うちも参加です、オンラインのシステムを作るかな」

麗は、安心したような顔。
「講師は、葉子さんかな」
「それと、引き受けてくれると助かるけれど」

その名前を明言はしないけれど、麗の周りに座る全員が考えるのは、麗の「祖母」鈴村八重子でしかない。
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