第198話奈々子と蘭の引っ越し 田舎の人への思い

文字数 1,368文字

麗の「母」と「妹」だった奈々子と蘭は、引っ越しの作業を急いでいる。
まずは長年住んだ家屋は家財と土地も含めて、九条家の不動産部に全ての処分と売却手続きを依頼した。
これは、新しく住む都内のアパートも、九条家不動産部の物件であったからの縁を利用した。

奈々子
「本当に必要なものだけ、持っていくこと」
「それ以外は、大きな家具も電化製品も都内で新規に買うから」

蘭も、素直に納得する。
「うん、新しく生活しようよ」
「すっきりしていいかな」
「早く麗ちゃんに逢いたい」

奈々子は、そんな蘭を戒める。
「蘭、麗ちゃんなんて言えないよ、麗様と頭を下げなさい」
「九条家に拾ってもらった立場なの、私たちは」

蘭も、それを言われては反論が出来ない。
「うん、そうする」
「でも、本当に拾ってもらって、救ってもらって」
「高校の転入までお世話していただいて」

さて、蘭については簡単に説得できるけれど、奈々子は他にも苦慮していることがあった。
それは、現在住んでいる町内会の人々の反応。

「最近、旦那様、見かけませんねえ」
「どちらに出張ですか?」
「最近、見慣れぬ京都ナンバーの車が停まっていましたけれど、何かあったの?」
「まさか、どこかに?」
「どうして何も教えてくれないの?」

奈々子は、そんな反応が、疎ましくてならない。
「宗雄の逮捕のことだって知っているくせに」
「何でも根掘り葉掘り聞こうとして」
「自分たちに何も関係がないのに、謝らせたくて仕方がない人たち」
「京都ナンバーの車が停まっていたって、そこまで見ている」
「自分の家の事情を、何の手助けにもならない人たちに、何故言わなければならないの?」
「結局、謝罪させて、また文句をあれこれと言いたいだけ」
「好きなのは、他人を貶めることだけだよ、ここの人たちって」
「かえって、都内で他人なんか関係ない方が。よほどさっぱりする」
「だから何も言わないで引っ越しする」
「引っ越しトラックも、使わない」
「手持の鞄だけで引っ越しして、必要なものは全て現地購入でいい」
「町内会には文書通知、引っ越し先も教えない」

蘭も自分が都内の高校に転校することは、友達に何も言っていない。
「あの子たちって、東京に行くってなると、とにかく大騒ぎ」
「着る服からアクセサリー、フレグランスまで、何日も前から、そんな話ばかりになる」
「そんな子たちに、私が都内の高校に転校するって言ったら、ますます大騒ぎ」
「絶対に嫉妬してくるし」
「意地悪も仕掛けてくる」
「京都に親戚があるって軽く言っただけで、ものすごい嫉妬の目だった」
「それが、東京に住んで23区の高校なんて言えば、どうなることか」
「引っ越しは今度の土曜日か、スマホのアドレスもすぐに変える」

蘭は、そこまで考えて、桃香に相談する。
桃香も蘭の考えを妥当とする。
「蘭ちゃん、いろいろあったけど、こっちで新しい生活や」
「生まれ変わればいいよ」
「こっちの人は、さっぱりしとる、というか他人には気を遣わん」

蘭も、桃香の反応で落ち着く。
「麗・・・様に逢いたいなあ」
桃香
「もう、麗様やね、お世話係も入っとる」
「九条家後継として、活躍を始めとるよ」
「茜様から、大喜びの電話や」
蘭は不安を覚えた。
「・・・逢って・・・くれるかな・・・」
桃香の反応は微妙だった。
「うちとか、美里は難しいけど・・・蘭ちゃんなら逢うかも」

蘭は、なかなか言葉を返せない。
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