第391話第一回石仏調査保存計画会議

文字数 1,633文字

昼食後、九条屋敷の会議室にて、第一回の石仏調査保存計画の会議が始まった。
司会は三条執事長。
麗は、今回の計画の立案者であり、統括責任者であることから、会議の冒頭では挨拶。

「本日は、ご多忙にも関わらず、この会議にご参加をいただき、こころより感謝いたします」
「さて、京の街に数多立っておられる石仏の調査、そして保存の目的につきましては、その石仏を守って来られた数え切れないほどの先人への感謝、そして先人たちの思いを、より確かな形にして、後代の人に伝えていくため」
「皆様方におかれましては、是非、この目的、趣旨を充分にご理解され、実際の調査にあたれるよう、心よりお願いいたします」

麗が大きな拍手を浴びて着席すると、三条執事長が資料に基づき、会議を進める。
石仏調査の実施期間、一人につき一体の調査にすること、調査した情報の報告方法は専門のサイトを作るのでそこに投稿すること、調査者には一定の謝礼があること、等が端的に説明されていく。

麗は、三条執事長の説明を聞きながら、感心する。
「実にわかりやすい説明だ」
「俺のほうが、回りくどいかも」
「相当事前に練習したのか、いや、もともと司会とか説明が上手なのか」
三条執事長から言われた「私たちに、もっと仕事をお命じに」は、「これほど自分を楽にさせるのか」と感じている。

不動産の麻友が、三条執事長に続いた。
「本日は、市役所の文化財保護を担当されている部門から、そして自治会連合会の代表者もお見えです」
市役所の担当者が挨拶に立った。
「市としても、本当に価値のある仕事と考えております」
「是非、協力させていただいて、京都市民そして京に来られる全ての人にも役立てたいと考えております」

続いて自治会連合会の代表者も挨拶。
「九条麗様からの御発案と聞き、誠にうれしく感じております」
「実は私たちも、常々、道端に立っておられるお地蔵さんとか、石仏に、感謝の気持ちを伝えられたらと、思ってまいりました」
「それが、この京にある全ての石仏を調べ、インタネットに発表するとか、冊子にするとか、こんな面白い話を聞いて」
「天気のいい日に、写真を撮らせてもらおうかとか、その前にしっかりきれいにさせていただいてとか、もう始めたくてたまらない程です」

寺社関係の代表者も、笑顔で挨拶に立つ。
「ほんま、ありがたいことです」
「一人一体も楽過ぎかなと思いましたが、これも多くの人に分け隔てなく仏恩をとのお心、ありがたい限りです」

麗が様々な挨拶を聞いていると、茜。
「なあ、麗ちゃん、一人が二体はあかんけど、二人以上で一体は構わんやろ?」
麗は、頷き三条執事長を呼び、その旨を言う。

三条執事長は、麗が言ったことを、正確に伝える。
「尚、麗様のお考えで、二人以上で一体は構わないということ」
「つまり、お仲間で一体を調査、投稿は問題ありません」
「特定の人が、何体も独占しなければ構わないとのことです」

特に自治会代表者がうれしそうな顔。
「はぁ・・・ますます安心です、一体を取り合うこともなく」

麗も、立ちあがり三条執事長を補足。
「少々言葉足らずの面がありました」
「しかし、たくさんの人に、調査でも何でも、関心を持ってもらえれば。その石仏も、お喜びになるかと、その趣旨で皆様、進めましょう」

麗の言葉を聞く全員が、満足そうな顔になると、麗は珍しく能面を崩す。
「皆様、横一線で、取り組みましょう」
「御仏に、全員で感謝の気持ちを伝えましょう」

麗が大きな拍手を受けて、再び座った後は、大旦那が締める。
「せっかくのことや、麗の言う通り、皆、横一線の気持ちで、立派な調査をしよう」
「それが先人への供養、我々の宝、子孫への贈り物にもなる」

第一回の石仏調査保存計画の会議は、無事に終わった。
次回は、七月中旬、つまり麗が東京から京都に戻って以降と決まる。

参加者を玄関で送り出し、ホッとした麗の肩を大旦那が軽く叩く。
「横一線で取り組むか、ええ言葉や」
「あれで皆がますます喜んだ」

麗は、恥ずかしいので、下を向いている。
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