第118話麗は吉祥寺で買い物、田舎の県庁所在地での店を思い出す。

文字数 1,538文字

翌朝になった。
「明日が九条様と茜さんか」と麗は思うので、部屋の掃除などをする。
と言っても、ゴミはほとんど無いので、あっさりと終わる。

大学に登校して、講義は午後2時半に終わった。
そして、少し考えた。
「やはり茶菓子があったほうがいいかな」
「と言っても、京都で美食だけを味わっている二人だ」
「下手に関東で作った和風の水菓子は出せない」
「もともと、京都の水と関東の水も、水質が異なる」
「水菓子からして、京都のほうが格段に美味しい」
「そうなると、水の違いが出にくい洋風の焼き菓子か」
「そうなるとブランド店の焼き菓子が無難だ」
「まあ、俺なんかの田舎者にセンスを期待もしないだろうけれど」

麗は、帰路、最寄の久我山を通り越して、大きなショッピングモールがある吉祥寺に出た。
そして、繁雑さに驚く。

「まあ、田舎の県庁所在地の繁華街ぐらいに店も多い、人も多い」
「そういう街があちこちにあるのが、東京」
「県庁所在地以外には、無いのが田舎」

麗は、その県庁所在地の古い菓子店で、得意そうにしゃべっていた人たちを思い出した。
「県庁所在地だから、県内でもトップクラスの人が集まりますの」
「小学校から高校までも、県内トップクラスの学生ばかり」
「他の市の市民も、他の市の企業も、まあ、県庁に税金を納めるための家畜のようなもの」
「だから、値段も差をつけるんです、私たち」
「いつも通ってくれるお客さんは、割り引いたり、少しおまけをつけたり」
「当り前じゃないですか、家畜と人間では身分が違いますから」

結局、県庁所在地に生まれて、そこで成長して、小学校、中学、高校、そして大学までも地元、就職先も県外に転勤がない県庁勤めが、一番安全で偉いと考えている人たちになる。
そのため、県内でも県庁所在地以外の出身者は、全員が「オノボリさん」、適当に定価で売って、さっさと帰ってもらうことが当然の昔からのしきたりと言い放つ。
また、店主も店員も、私語が非常に多い。
馴染みとの私語を優先して、一見の客は、どんどん後回し。
その後回しされた客が戸惑う様子を、店主と店員、馴染みの地域客が冷笑する構図も見たことがある。

「かといって・・・」

麗は、同じような接客をする店で、違う様子を見た。
「東京からの客には、実にペコペコしていた」
「東京からです、と言った途端に、顔がマジになった」
「東京と言えば、何でもかんでも偉いと思うのかな」
「そして、その東京からの客が帰れば、東京の文句」
「たいしたことない、東京なんて」
「俺の店は東京の店に負けない」
「何しろ、俺の店は県内でも一番だとか、店員に怒鳴り散らしていた」
「呆れる限りだった、地域しか判断の根拠を持たない世間の狭さ」
「少なくとも実力がないと通用しない東京とは違う」

さて、麗は、そんなことを思いながら、全国展開する有名百貨店のクッキーを買い、珈琲豆の残りにも不安があったので、専門店でコロンビア豆を買う。
「やはり、珈琲豆も田舎とは新鮮味が違う」
「まあ、田舎だと、せいぜいインスタント」
「珈琲粉を買ってきて飲むのは、まだまだ少数」
「豆の銘柄まで指定して買って、自分で挽いて飲むなんんて、千人に一人か」

麗の買い物は、そこで一旦終わった。
後はアパートに帰るだけ。
ミネラルウォーターも買おうと思ったけれど、重たくなるので、近所のコンビニで買うことにした。
夕食になるものも、ショッピングモールに相当売っているけれど、結局見向きもしない。
そのまま、井の頭線に乗り込み久我山でおり、コンビニでミネラルウォーターとおにぎりを二個買って、アパートに帰った。

おにぎりを食べている途中、スマホに着信音。
妹の蘭からのメッセージだった。
「明日、がんばってね」とだけ。

麗は、珍しくすぐに返信。
ただし、「うん」の2文字だけだった。
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