第326話詩織の苦しみ 茜は対応に苦慮

文字数 1,390文字

さて、茜を通じて麗に強引に面会の約束を取り付けた詩織は、その後の麗の「冷たい響きのする迷惑そうな反応」と、相談をかけた葵からの言葉「あまり、けったいなことを、お控えに」に、苦しんでいた。

「つい、うれしくて、はしゃいでしもうて」
「麗様は・・・迷惑そうなお声やった」
「電車の音がしたけれど、うちは子供の頃から、送り迎えで、そんなのわからんし」
「あかんなあ・・・嫌われたかもしれん」
「ちゃんと話をする前に、お払い箱?」
「マジに笑い者や、しかもうちのミスや」

葵の言葉も、何度も心をえぐる。
「あまり・・・つまり、度を過ぎた?でしゃばった?」
「けったいなことは・・・馬鹿げたことや、忙しい麗様のお疲れも考慮せず、自分勝手を押し通してしもうた」
「お控えには・・・それでも腹が立つ・・・叱られてしもうた」

葵の言葉に腹が立ってくると、葵が憎らしくなった。
「どっちが自分勝手や!」
「茜さんと通じて、麗様の進学する大学を聞いて」
「京都を捨てて、追いかける?」
「何が九条財団の仕事や、あざと過ぎるわ」
「勝手に独占しておいて、お控えにって、何や!」

ただ、詩織にとって難しいのは、葵に腹を立てたところで、何の解決もないこと。
「お目当て」の麗を不機嫌から、好感に変えなければ、何にもならない。
そもそも、麗の好感さえ得られれば、葵の皮肉などは、どうでもいいのだから。

落胆と不安から、そこまで考えが進んだ詩織は、何とか麗の好感を得るような策を考えることにした。
「贈り物は、当然やなあ」
「でも、何を好むか、わからん」
「いらん物を渡して嫌われても、困る」
「好感を得る話題は・・・?何やろ・・・」
「知っとるとしたら、やはり茜さんやろか」
「絶対に葵には、聞きとうないし」
「不動産の麻友さんにも・・・そこまで親しくないし」

しかし、いろいろ考えても、詩織には全くわからない。
結局、茜に聞くことになった。
もちろん、「麗の反応」だけは伝えた。
しかし、癪に障るので、「葵の皮肉」は伝えない。

再び詩織から相談を受けた茜は、クスクス笑い。
「そやなあ、麗ちゃんが喜ぶ物とか話題か」
「そんなん、うちでも母さんでも大旦那でも、難しいわ」

しかし、詩織は、それでは困る。
「何とか、ならんでしょうか」
「うちは、もう焦ってしもうて」

茜のクスクス笑いがおさまった。
「麗ちゃんは、高価な物とか、値段で喜ぶタイプやないよ」
「まず、それが基本」
「値段ではなく、その物に、どれほど人の真面目な心がこもっているのか」
「見せかけの派手な物は、好かんと思う」
「話題にしても、軽い話は好まん」
「しっかりとした勉強とか努力が、わかるような話」

詩織は、頭を抱えた。
「はぁ・・・ますます、わからなくなりました」
強気な詩織の声も、弱々しい。

茜は、そんな詩織が、少し可哀想になった。
そして、詩織の積極的ではあるけれど、浅慮さが気にかかる。
このままの状態で、麗と二人きりになったとしても、詩織はともかく、麗の心を射止めるどころか、開かせるのも困難。

結局、面倒になってしまった茜は、一つの提案をした。
「石仏保存調査の話があるけど、何か詩織さんなりに、考えをまとめて提案したらどうや」
「愛とか恋とか、デートの話の前に、京の石仏の情報でもいいかも」

詩織の声が、少し明るくなった。
「ありがとうございます、努力してみます」

茜は、詩織との電話を終え、「まあ、詩織の目はないな」と、考えている。
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