第132話九条様との面会(12)

文字数 1,141文字

「麗の嫁」問題は、どう考えても、この場で結論が出るものではなかった。
麗は、「もう、しばらく」と答えるしかなかった。

大旦那も、それ以上は言わなかった。
「そやな、いろんな話があり過ぎたかもしれんな」
「養子縁組から始まって・・・実にやることが多い」
「始末をつけることも多い」
「難しい話は、ここまでや」
「何よりまず、麗が養子を納得してくれただけで、うれしい」

麗は、素直に頷いている。

茜が麗の顔をじっと見た。
「なあ、麗ちゃん、連休の予定は何かあるん?」
「どこかお出かけするとか?」

麗は、全く、この面会の日以降の連休の計画は立てていなかった。
とにかく無事に面会ができるかどうか、それが気になって、とてもその後の予定など考える余裕はなかった。
ただ、麗の日常生活を考えれば、動いたとして神保町に本を探しに行く程度になる。

麗は恥ずかしそうに答えた。
「いえ、出かける予定は、何もありません」
「古本屋で買った本でも読むかなあ程度です」
「観光地はどこでも混みあいますし」
「都内のほうが、人が少なくなります」

大旦那は頷いた。
「そやな、連休の京都なんて、ひどいもんや」
「それもあって、東京に出てきたら、実にスッキリや」
「はぁ・・・肩の力も抜けるほどや」
「久しぶりに山手線に乗って、井の頭線とやらに乗った」
「まあ、えらい、きれいな電車やった」
「聞こえてきた言葉も、最初は関東言葉で、硬いなと思うたけど」
「ネチャネチャしとらん、スッキリしとる」
大旦那は、スッキリを連発する。

茜がそんな大旦那を笑う。
「そやね、久しぶりに洋服を着て、大旦那もうれしいんや」
「とても京都では着れんし」
「ちょいとした小旅行や、気分転換やね」

大旦那が麗に尋ねた。
「ところで麗、雑談や」
「どんな本を買うたんや?興味あるな」

麗は、席を立ち、書棚から本をテーブルの上に置く。
茜が面白そうな顔。
「へえ、古代ローマ・・・カエサル・・・」
「マキャベリねえ・・・うちも興味ある」
「それと・・・式子内親王様?」
「万葉集ねえ」

大旦那も興味深そうに、本を見ている。


「神保町の古書店で取り寄せてもらったり買ったり」

ただ、大旦那の雑談はそこまでだった。
「麗、特に予定がなければ、急で悪いけどな」
「京の屋敷に泊りに来れんか」

「え?」と驚く麗に、大旦那は言葉を続けた。
「香料店の隆もどうなるかわからん」
「生きている間に、お見舞いや」

麗は、断りようがなかった。
小さな頃から「従兄」として親しかった隆が重篤状態。
連休で予定があっても、見舞いを優先するのが京都人には「筋」になる。
「ましてや、養子縁組を納得してしまった以上」であり、とても逃げられる話ではない。

「わかりました、僕も隆さんに逢いたくなりました」

麗は、「このまま・・・もしかして葬式に」との不安も高まっている。
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