第497話奈々子の不安な様子 三条執事長も何かの不安

文字数 1,511文字

翌土曜日の朝、麗とお世話係の美幸、葵と花園美幸は、高輪の家からタクシーに乗り品川駅に到着、そのまま新幹線に乗り込む。
新幹線が品川を出ると、葵と花園美幸が、麗に頭を下げる。

「ほんま、未来のようなマンションで、ありがとうございます」
花園美幸
「うちも、機械好きですが、ほんまデジタル仕様で面白うて」

麗は、少し顔をやわらげる。
「お手伝いもせず、でも、順調なようで」
「高輪のほうが、通勤通学とか、京都との行き来で便利ですね」
葵はうれしそうな顔。
「何より麗様と近くになりますし」
花園美幸も笑う。
「麗様が秋冬に風邪を引いたら、早速看病に来ます」

それでも、麗は、奈々子と蘭が気になった。
「奈々子さんと蘭から、お礼の電話はあったけれど」
「実際はどうだったのか、わかります?」
葵が花園美幸の顔を見ると、花園美幸が答えた。
「私たちは簡単に引っ越しの始末が終わりましたので、ご苦労さん会でお邪魔して」
「ただ、奈々子さんが、少し不安があるようです」
「理由は聞き出せなくて、蘭ちゃんも首を傾げるばかり」

麗の顔が曇った。
「それは、ご迷惑を・・・」
葵は首を横に振る。
「いえ、そこまで悪い話ではないような、ただ、言い出すのが・・・とか」

奈々子の不安な顔の原因については、新幹線の車内では、それ以上は話が進まなかった。
麗自身が奈々子の性格をよく知っている。
「言い辛いことは、決して言わない人だ」
「言い辛ければ、言うべきことも言わない」
「そんなことの繰り返しで、奈々子と蘭の不始末まで、俺はそれをかばって、宗雄に殴られ蹴られ、怪我をすれば自分で包帯を巻き、絆創膏を貼り」
葵が「そこまで悪い話ではない」と言ったけれど、どうでもよくなった。
「どうせ奈々子のことだ、引っ越しで何かが行方不明になった程度だろう」
「他人から見れば、大事なものではない、その置き忘れ程度、それで奈々子はグルグルと歩き回っては苦しむ」

麗は、そこまで考え、目を閉じ京都までうつらうつら状態。
それでも、京都駅到着のアナウンスで目を覚ます。

京都駅新幹線改札口では、通常通り、葵と花園美幸には、それぞれの家からのお出迎え。
また、麗とお世話係の美幸にも、通常通り三条執事長が立って待っている。

しかし、麗はその三条執事長の顔が、いつになく緊張しているように見える。
麗は、定例通り、出迎えの感謝の言葉をかけた。
「三条さん、いつもお出迎え、ありがとうございます」
三条執事長の返事も定例通り。
「はい、遠路はるばる、お待ちしておりました」
「さっそくお車に」
ただ、表情も声も、いつもより緊張している。

お出迎えの黒ベンツに乗り込み、麗は三条執事長に声をかけた。
「三条さん、何か・・・変わったことが?」
三条執事長は、答え辛そうな雰囲気、その耳まで赤く染まっている。
「はい・・・それは・・・後ほど・・・」
少し間があった。
「何と申し上げていいのやら・・・ほんまに・・・」

麗は、声を低くする。
「九条家に何か問題でも発生したとか?」
しかし、そんなことがあれば、大旦那や五月、茜、秘書の葉子から連絡が来るはず。
ただ、麗はそんな連絡は一切受けていない。

三条執事長は、首を横に振る。
「いや・・・九条家そのものには、何もありません」
「それよりは、麗様の評判が日増しに高まりまして、お屋敷で話があると思いますが・・・面会希望者が、半端なく多い状態で」

麗は、「それも面倒だ」と思うけれど、それ以上に三条執事長の様子が気になる。
九条家理事会などでは、あれほどのテキパキとした司会進行、気難しさを自認する麗が評価するほどの「仕事人」の三条執事長が口ごもるとは、どんな話なのか。

麗は、結局その顔を厳しくしたまま、九条屋敷に戻ることになった。
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