第197話学生証変更手続き、そして山本由紀子

文字数 1,349文字

予定通りに九条家不動産部の麻友も到着、麗の学生証の名義変更手続きも無事終了。
麗は、「九条麗」となった学生証を手に、麻友に礼を言う。
「ありがとうございます、何から何まで」
「はるばる京都から」

麻友は、やさし気な顔。
「いえ、当然でございます」
「私どもも、この日を心待ちにしておりました」
麻友は、麗に別の書類を渡す。
「住民票等となります」
「本籍地も変更してございます」

麗が住民票を確認すると、確かに京都の九条家の住所になっている。
麗は、そこで思った。
「これで、宗雄と奈々子とは縁が切れた」
「蘭は・・・仕方ないな」
泣き虫の蘭の顔が浮かんだけれど、これは、致し方ないこと。

複雑な表情で、書類を見ている麗に、麻友が補足する。
「これから、九条財団をはじめとして、様々な九条家の持つ関連会社でお仕事をされるようになります」
「その際の税務申告も、当社で対応いたします」

麗は、その言葉で「現実」に引き戻される。
「縁が切れるとか、寂しい」などの感情は、確かに現実の世界の税務申告には、全く関係がないのだから。
そして今までは、仕事をするなど考えもしなかったし、その意味で税務申告など全く理解がない。
「そうですね、それについては、お願いすることになります」
「私も、教えて欲しいので、是非、ご指導を」

麻友は、やさし気な笑顔で麗に頭を下げる。

麗は、学生証変更手続きに立ち会った葵が気になった。
「これから麻友さんと葵さんで、転居など打ち合わせがあるとか」
葵は笑顔。
「はい、この後の予定に」
麻友も笑顔。
「麗様もお聞きになります?」

麗は首を横に振る。
「いや、そこまでは」
「結果がわかったらでも、かまいません」
麗自身としては、少し九条関係の人と、離れたかったのが本音。
それに、このまま居残って話を聞いているのも、直接的には自分には関係のない話。
そのまま、目で合図、学生課を後にする。

麗が、ようやく開放感を感じたのは、図書館に入ってから。
図書館に出向いたのは、司書嬢の山本由紀子に、「連休後にお礼の会食をしたい」との約束をしてあったため。

麗は、他には目もくれず、真っ直ぐに、司書嬢山本由紀子の前に進む。
山本由紀子は麗を見て、本当にうれしそうな顔。
そして、隣の司書係に目で合図。
図書館の中の談話室に麗を誘導する。

麗はしっかりと頭を下げる。
「その節は、本当にありがとうございました」
「吉祥寺の料亭にも内諾を得てあります」
「山本様のご都合はいかがでしょうか」

山本由紀子は顔を赤らめた。
「あら・・・本当なの?うれしいなあ・・・」
「えーっと・・・明後日なら大丈夫」
「すごく、ドキドキするから、気持の準備も必要なの」

麗はしっかりとメモ。
「ありがとうございます、メニューでどうしても食べられないものとかは、ございますでしょうか」

山本由紀子は、笑顔で首を横に振る。
「はい、私も江戸っ子、そんな無粋なことは言いません」
そして麗の顔をマジマジと見る。
「ねえ、麗君、少し・・・すごく少しだけ、顔色が良くなった」
「安心したなあ、弱々しかったのが、イケメンになった」

麗は、顔を見つめられて、本当に恥ずかしい。
しかし、山本由紀子の笑顔は、本当にうれしい、凝り固まった肩の力をスッと抜けさせる。
麗は、「この笑顔だけは、いつまでも見ていたい」、そんな気持に満たされている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み