第59話麗は高橋麻央の実家に到着、妹の佐保と初対面

文字数 1,086文字

高橋麻央と麗がそんな話をしていると、大きな洋館の扉が開いた。
そして出てきたのは、20代前半の美しい女性。

高橋麻央
「妹なの、出版社に勤めている」
「名前は佐保」

麗が頭を下げると、その「妹佐保」が歩いて来た。

佐保も麗に頭を下げる。
「佐保です、至らぬ姉がお世話になっています」

麗から見た佐保は、姉の麻央とよく似ている。
ただ、テキパキとした麻央とは違い、ほんわかとした柔らかい感じ。

佐保が言葉を続けた。
「姉は、いつも麗君の話をしています」
「どちらかというと、心配している話が多いのですが」

麗は、少し困った。
「はい、至らぬ点が多くて」
どうして、お手伝いに来て、そんなことを言われるのかと思うけれど、ここは他人の家、それしか浮かばない。

その佐保を麻央が補足する。
「とにかく心配なのは、顔色がいつも青白いこと」
「麗君の健康の話なの」

佐保が、麻央の顔を見た。
「とにかく入ってもらって、お茶でも」
「それと、食べる物が足りていないような感じなので、それも準備するよ」

麗としては、「はぁ」と頷くしかない。
両方とも、年上の女性であって、自分など子供と見られていると思う。

佐保の目くばせで麻央が歩き出したので、麗も続く。

佐保
「麻央は、出版社では料理関係の編集者なの」
「自分でも、料理好きだから、安心していいよ」

麗は、あまり食欲がないので、また困る。
「あまり午前中に食事を取る習慣がありません」
実は、昼も食べないけれど、それを言うと、何を言われるかわからないので、ここでは黙っている。

大きな洋館に入り、麗が通されたのは、16畳ぐらいのリビング。
大きな暖炉、天井には年代物のシャンデリア。
テーブルは濃いブラウンの大きな一枚板、椅子もイギリス風の立派で優美なもの。

高橋麻央
「少し待ってね、佐保がお茶と何か食べる物を出します」
麗は少し緊張している。
「はい、それほどお構いなく、お手伝いに来たので」
高橋麻央
「とにかく古臭いリビングでね、当世風にしたいんだけど」
麗は、そうではないと思う。
「イギリスのウィンザーチェアですよね、すごく好きです」
「当世風にしたら、もったいないと思います」
つい、本音を言って後悔する。

高橋麻央は、その麗の言葉に目を丸くした。
「麗君、そんなことがわかるの?」
「私は源氏しかわからないもの」

麗は答えに困った。
その知識は、京都の母の実家の香料店現当主晃に教わったものだから。
そのまま言うと、万が一にも、京都の実家がわかってしまう。
「いえ、たまたまです、偶然です」
答えにしても、ロクな答えが出来ていない。

その麗は、アッサム紅茶の香りを感じ取った。
眠り込んでいた食欲が、少しだけ目を開けている。
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