第190話湯女

文字数 1,103文字

麗が、いろいろ考えこんでいると、部屋にノック音。
ドアを開けると、直美がうれしそうな顔。
「麗様、搬入品の整理が終わりました」
力仕事は、ほとんどなかったけれど、やはり仕事が多ければ、5月の気温、汗をかいている。

麗は汗まみれの直美が少し眩しいけれど、配慮を示す。
「シャワーか、お風呂でも」
直美は、驚いて顔を横に振る。
「いえ、麗様が先に、とんでもありません」

麗は困った。
「いえ、私は汗はかいていないので」
「直美さんが風邪を引かれても困ります」
直美も、困った顔になる。
「やはり・・・私が先には、気が引けます」
麗は、ここで押し問答をしても仕方ないと思った。
「それでは、先に入りますので、続いてすぐに入ってください」
直美の笑顔が戻った。
「はい、お着替えも用意してあります、湯船にも湯を張ってあります」

「何と手際がいいことか」と思うけれど、ためらっている時間もない。
麗は、「なるべく早めに出てしまおう」と考え、湯船に沈む。
「まさか九条屋敷ではない、湯女もないだろう」と思うけれど、やはり万が一の不安もある。
沈むのも3分程度、少し身体を洗い出した時だった。
脱衣場に、直美が入って来たような影が見え、物音がする。

麗は驚いて声をかけた。
「直美さん、すぐに出るので、少し待って欲しい」
直美の答えも早かった。
「いえ、その必要はありません」

麗が返事をする間もなかった。
ドアが開いて、全裸の直美が入って来た。

麗は、困惑する。
「湯女・・・ですか?」
直美は顔を赤らめる。
「はい、少し恥ずかしいのですが」

麗も恥ずかしい。
何を言っていいのかわからない。

しかし、直美の次の言葉は、麗の予想していたものとは違うもの。
「すみません、最近・・・太りまして・・・」
「それが恥ずかしくて」

麗は、答えに困った。
「いえ・・・あの・・・ふくよかで・・・美しいと」
自分でも恥ずかしい答えと思うけれど、そんな言葉しか浮かばない。

直美は、顔がますます赤くなる。
「そんな、美しいなんて・・・」
「お世辞も過ぎます」
と、そのまま指に石鹸をつけて、麗の身体を洗い出す。

「きれいなお肌です」
「少し、やせ過ぎかな」
「私、美味しい料理を作ります、たくさんお召し上がりになられて」
「お身体に肉をつけましょう」

直美は、いろいろと言って麗を洗うけれど、麗はその指使いに陶然となる。
身体の反応も始まっている。

「こうやって、麗様の全てを見るのも、健康管理なのです」
「毎日、しっかりとさせていただきます」
「そこで、腰を引かれると・・・」
「もっと丁寧に洗いますよ」

その直美の声も、かすれ始めた。
麗がようやく目を開けて直美を見ると、目が潤んでいる。
豊かな胸まで赤く染まり、美しい脚もふらついている。
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