第493話瞳は奈々子の「秘密」を知っていた

文字数 1,425文字

九条財団には休みを取り、高輪マンションへの転居準備をする奈々子に、鎌倉の香料店の瞳から電話がかかって来た。

「どうや?うちも手伝おうか?準備できる?」
奈々子
「ああ、大丈夫や、少し疲れが出て寝込んだけど、もう動けるよ」

「麗様のお近くになるし、顔を見ることもある、久我山よりは安心やな」
奈々子
「麗様は、面倒と思うかもな、また追いかけられて」

「そう言わんと・・・奈々子の悪い癖や、麗様はほんまに気遣いのできる人や」
「深く心配しとると思うよ」
奈々子
「それは感じる、申し訳ないくらいに」

「蘭ちゃんは、どうや?慌てとらん?」
奈々子
「蘭は、うれしくて仕方ないみたいや、毎日麗様の話ばかりで」

「そうやろな、子供の頃から、蘭ちゃんは麗様にべったりや」
「それを、うちの美里と桃香ちゃんまで加わって取り合い」
「それが可愛くて、麗様の困った顔も面白うて」
奈々子
「あの頃が懐かしい、恵理と結と宗雄がいなければ、天国やった」

瞳は「これからは、その三人も影響力はないし、ようやく、まともな九条家の復活や」と応じ、少し間を置いた。
「なあ、奈々子、ずうっと前から気になっとったけど」

奈々子は少し不安。
「え?何?意味深やな」
瞳の声が低くなった。
「奈々子は、宗雄を恵理の意向で押し付けられ、大旦那と奈々子の兄さんも、あの当時の宗雄の外面の良さに、コロリと騙され・・・」
「その後の実態がわかっても、後の祭り」

奈々子は苦しい返事。
「今さら、そんなこと言われても・・・うちは・・・どうにもならん・・・」
「麗様の面倒を見ること、蘭を守ることに必死で」
「ただ、麗様は・・・しっかり見れんかったけど・・・恵理も宗雄も酷過ぎて」
「麗様が・・・蘭が不始末をしても、宗雄のかんしゃくを引き受けてくれて」

瞳は、また低い声。
「麗様らしいと思うけれど、それは申し訳ない、申し訳なさ過ぎると思うけどな」
奈々子は、瞳の低い声に不安。
「麗様のことやないの?」

瞳の声が、また低い。
「ああ、今は、そうやない、奈々子の話や」

奈々子は困惑、瞳から自分について何を言われるか、全くわからない、結局黙ってしまう。

瞳は、声をやわらげた。
「あのな、奈々子、ほんまのこと言うて欲しい」
奈々子は、不安がふくらむ。
「なんや、怖いなあ・・・」

瞳の声が、震えた。
「あの人とは、あれっきり?」
「あの人でわかるやろ?」

奈々子は、応えに詰まる。
「何でそんなこと聞く?瞳が何でそんなことを聞く?」

瞳の声が落ち着いた。
「香苗さんは強い、五月さんはもっと強い、でも、うちなら話せるやろ?」
「あんたの晃兄さんとか、大旦那にも言いづらいやろ?」
「ましてや、子供世代には」

奈々子の声が震えた。
「そんな・・・瞳、何を言うとる?ようわからん・・・よう言えんよ」

瞳の声が強くなった。
「奈々子のそんな性格を心配してのことや、正直に言ってくれれば、後はうちら女たちが何とかする」
「だから、奈々子、ほんまのことを」
瞳は、また間を置いた。
「奈々子・・・あの時・・・やろ?」

奈々子は、それでも抵抗。
「あの時っていつや、知らんわ、そんなん・・・全く、おかしなことを」

瞳の声が、また震えた。
「・・・葵祭の夜や、恵理は兼弘さんに悪態をついて宗雄と遊びに出かけ」
「奈々子は・・・あの人と・・・」
「今は、えらくなった、あの人と一緒に」
「その後の誕生日を見れば・・・生まれて来た女の子の顔を見れば・・・」

奈々子は、身体がガタガタとして、全く言葉を返せない。
結局、泣き出してしまった。
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