第15話桃香に話し込まれ、叱られる麗。

文字数 1,293文字

麗の珈琲の淹れ方はフレンチプレスによるもの。
そのため、ドリップ式と異なり、珈琲の味にコクとまろやかさが深まる。

桃香は、飲みながら、まだご機嫌。
「麗ちゃん、本当に美味しいなあ」
麗は、実はそろそろ帰ってもらいたいので、素っ気ない。
「いや、フレンチプレスなので、誰でも簡単に美味しく飲めるだけ」
「本当に送ってもらってありがとう」
麗としては、「お礼」と「やんわりと帰ってもらいたい」とのサインになる。

しかし、桃香はそうはいかない様子。
「あのな、麗ちゃん」と言って、腰を落ち着けてしまった。
麗は、実に面倒に思うけれど、「さっさと帰って」などとはなかなか言えない。
だから、桃香の話を少しは聞かなければならない。

桃香は、真正面から麗を見て話し出す。
「女将って私の叔母さんの香苗さんやけど」
「麗ちゃんがお店に来た時点で、気がついてな」
「麗ちゃんのお母さんに連絡したみたいなんや」

麗は、「うっ」と珈琲を飲みながらむせるけれど、桃香の話は続く。
「そしたらな、麗ちゃんのお母さんが本当に心配しとるみたいなんや」
「何しろ東京に行ったきり、何の電話もないし」
「元々口数が極端に少ないことはわかっているけれどって・・・」

麗は珈琲にむせながら、聴くばかり。

桃香
「それでな、香苗さんが、じゃあ姪の桃香に送らせて、生活の様子を見させますって」
「それもあって送って来たんや」
「まあ、三井さんって酔いつぶれた人は、特別参加のような感じやな」

麗は、ようやく事の次第を理解した。
ただ、出て来る言葉は麗らしく月並みのもの。
「それはそれは・・・ご苦労さん」

桃香の話は、まだ続く。
その顔を厳しめにして、
「でね、食生活なんや、麗ちゃん」
と切り込んで来る。

麗は、その厳しめの顔がわからない。
「え?何かあるの?」
キョトンとしていると、桃香の手が麗の頭の上に伸びて来る。

桃香は、厳しい顔から「お怒り顔」に変化。
そのまま、軽い拳骨パンチが麗の脳天を直撃する。

麗は、「何?そのパンチ」と聞き返そうとするけれど、桃香の顔が実に怖い。
桃香
「何で冷蔵庫に何もない?珈琲豆くらいしかないやん」
「説明してよ、それも仕事なんや」

麗はこの時点で、桃香に押された。
子供の頃から、桃香の脳天拳骨パンチと怒り顔には、めっぽう弱い。
素直に白状するしかないと思った。
「えっと、朝は食べないし、昼は珈琲だし、夜はコンビニ弁当だし・・・」
「料理する必要もないから、冷蔵庫には珈琲豆くらいしかない」

すると桃香は、ますますのお怒り顔。
「もーーーー!何やっとるんや!」
「やけに顔が白いって思うとったら、栄養失調や、それって!」
「若い男の子やろ?何でそうなるん?」
「あっきれるわあ・・・拳骨どころじゃないって!引っぱたくなって来た!」
「なって来た」どころではない。
既に桃香の右手は、上がり始めている。

麗は、拳骨に加えて引っぱたかれたくはない。
何しろ、桃香の張り手は、パワフルということを、子供の頃に肌身に感じている。
だから、必死に抵抗を見せる。
「やめてよ、桃ちゃん、それ痛い」

しかし、桃香は、かまわず、その右手に「はぁ・・・」と息を吹きかけている。
麗は、ますます逃げ腰になっている。
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