第400話麗は珍しく自然な笑顔

文字数 1,491文字

茜の言う通りだった。
麗が時代和菓子の試食会場でもある大広間に入ると、和菓子職人たちから大歓声。

「麗様!お初に、はぁ・・・うれしいですわ、ほんま」
「葵祭に石仏調査、ほんま、いつお逢いできるかと楽しみに」
「聞いていた通りや、男前や、キリッとして」
「それに今日の御仕置、スッとしました」
「長年の厄介者を退治してくれて、さすがです」

いきなりの笑顔と感謝の大洪水に、さすがの能面麗も困惑。
「はじめまして、麗です、このたびは」とまでは言うけれど、何故ここまでの騒ぎか、理解できていない。

その麗を茜がフォロー。
「皆さま、麗様です、といっても有名人ですので、紹介はここまでに」
茜のフォローに、菓子職人たちがドッと湧く。
また、会場の大広間にはすでに九条家のお世話係や使用人たちも勢ぞろいして、一緒に湧くので、実に大騒ぎのような雰囲気になる。

麗は、それでも和菓子職人たちに尋ねた。
「実際、特に浜村秘書さんのことと思うのですが、どんな感じだったのでしょうか」
「ここまで盛り上がっているので、7時からの試食会には、少し時間があります」
「教えていただければ、今後の参考になります」
「この際ですので、自由にご発言をお願いします」

その麗の質問に、様々ではあるけれど、似たような答えが返って来る。
「まあ、店に入って来て、威張り放題で」
「店頭の菓子を無断で食べて、あるいはそのままポケットに」
「金も払わんし」
「たまに買っても、まあ値切る、半値や」
「地方のテレビ局のアナウンサーやったけど、その時から傲慢や」
「弁は立つけど、中身がない」
「目立ちたがりで、竹田先生の陰口ばかり、それを聞かされるのも飽きました」
「それでも、地方局のアナウンサーやったから、顔は売れとる、店の客もチヤホヤするから、ますますつけあがる」

などなど、文句は尽きないけれど、麗は一旦止めた。
「本当に皆様、ありがとうございます」

さすがに言い過ぎたかと思ったのか、神妙になった和菓子職人たちに、麗は語り掛ける。
「ところで、政治家は、特に私たちが投票する政治家は、少なくとも私たちが反感を持たない人になると思うのです」
「少なくとも、そんな迷惑をかけるような人には、誰も投票したくない」

和菓子職人たちが頷くと、麗は続けた。
「今後、九条家の後援する政治家については、皆様のお気持ちを大切にする人を選ぼうかと」
「その趣旨で、選ぶ際には、皆様も当然、京の街衆の意見やお気持ちを、お聞きしてからの話になります」
「上手く表現は出来ませんが、今後も折に触れて、ご意見や情報をいただけると、うれしく思います」

そんな話を聞きながら、大旦那と五月も入って来た。
大旦那
「ああ、みんな集まってくれてありがとう」
「麗の言った通りや、これからは京の街に役立つ人を選ぶ」
「京の街を利用して、自分がのしあがろうとする者は選ばん」

麗は、大旦那に目で合図。
大旦那も頷いたので、話題を本筋に戻す。

「それでは、美味しい時代和菓子の試食を前に、こんな無粋な話は終わり」
「もっともっと京の街の今後のためになる時代和菓子の試食会に移りましょう」

その麗の言葉に、和菓子職人たちが、ふたたびドッと湧く。
試食会も始まってもいないのに、自然に拍手、それも大きな拍手になっている。


そんな大歓声と大拍手を受ける麗の顔は、見たこともないような自然な笑顔。

その笑顔を見て、五月はつぶやく。
「麗ちゃん、何か、変わったかな」
「ほんま、輝いとる、可愛くて美しい」

茜も同感。
「これは、ますます麗ちゃん人気出るわ・・・あの笑顔は・・・半端ない」
「すごく成長しとる、日増しに」

大旦那も実にうれしそうな顔で麗の笑顔を見つめている。
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