第253話麗は和服を選ぶ 大旦那たちは別の相談

文字数 1,277文字

しばらくして、ようやく落ち着いたのか、佳子は動き出した。
「はぁ・・・まだ、心地よい」と言いながらも、素早く服を着る。
麗も、同じように服を着ると、「うちの仕事なのに」と残念そうな顔。

それでも、切り替えが早い性格のようで、麗のウォーキングクローゼットを開け、スーツを何着か取り出す。
「麗様の葵祭の衣装です」
「大旦那様の御意向で、スーツでも構わないと」
「もちろん、和服でも構いませんが」

麗は、正直、どちらでもいい。
「動きやすいのはスーツだけど」
「和服のほうが、重みがあるのかな」
和服であっても、自分で着ることができるので、何の不安もない。
かつて、香料店の晃に、丁寧に教えてもらったことを、ここに来てありがたく思う。

佳子は、にっこりと笑う。
「どちらでも、着付けは、私にお任せを」
「私の仕事を、取らないでください」

麗は、その笑顔にドキッとする。
年上になるけれど、なんと愛らしいことか、まだ10代のような笑顔と思う。
しかし、スーツか和服を決めるほうが先。

麗の決断は早かった。
「大旦那が和服になると思うので、私も和服にします」
麗としては、スーツなら、いくらでも着る機会がある。
しかし、葵祭での九条家の次期当主、その初顔合わせの意義を考えれば、和服のほうが「京都人」には受けると考えた。

その麗の考え通りに、「京都人」である佳子の顔が、パッと輝いた。
「あら・・・・うれしゅうて・・・はぁ・・・」
「麗様の和服姿なんて・・・目の保養ですわ」
「ありがたいです」
「後は、香りを・・・それは麗様のご専門のような・・・」


麗と佳子が、和気あいあいと部屋にいる時間、リビングでは、大旦那と五月、茜による、都内に派遣する「奈々子のカウンセラー兼医者」についての話し合いが行われていた。

大旦那
「学園の医者で構わん、優秀な者を」
五月
「麗ちゃんが困ることが、一番まずい」
「これ以上、奈々子や蘭に足を引っ張らせとうないもの」

「奈々子さんも悪い人やないけれど、弱過ぎや」
「誰かに何かを言われれば、すぐにそれになびく」
「なびくけれど、長続きせん」
大旦那
「とにかく早い人選を、それだけでも麗の気苦労が減る」
「せっかく九条家に迎えたのに、また気苦労では可哀想や」

五月が手に持つタブレットに、学園から連絡が入ったようだ。
「ここに何人か、写真と経歴が」と、五月はタブレット画面を大旦那に提示する。

大旦那は、腕を組んで考える。
「女が五人か・・・そのうちの一人やな」
「年齢は・・・全員が二十代前半か」
茜も、じっと五人を見る。
「同居はしないから、お世話係にはならん」
「麗ちゃんが住んでいたアパートに代わりに住んで、奈々子さんの観察」
「そして、財団の九段下事務所の常駐医師となると・・・」
五月は、五人の中から、出身地と家柄を見る。
「京都以外はあかん、それと九条家に一番縁が深い娘や」
「万が一もある、危険は避けなあかん」
「下手な評判が漏れれば、九条家の恥や」

大旦那が話を決めた。
「この・・・花園家の娘にする」
「親もわしの子分や、娘もよう知っとる」
「わしからも、事情はよう言い含めておく」

五月は、早速、電話をかけている。
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