第53話九条家の秘密 香苗と「母」奈々子の不安。

文字数 1,324文字

九条の大旦那は、実は眠ってはいなかった。
とにかく不安で、とても眠ることなどは無理だった。

「茜に気を使うて寝たふりをしただけや」
「今後が怖ろしうて、ならん」
「隆は・・・無理や・・・生きても、一月持たん」
「あの香料店とて、跡継ぎはおらん」
「そんなことを言う前に、この九条の家にもおらん」
「兼弘は死んでもうたし・・・手だてがない」
「茜が婿を取ることはできん・・・そもそも・・・この九条家は男子相続が決まりや」

大旦那の顔が苦渋にゆがむ。
「あの時に、恵理を嫁にしたのが、全ての間違いや」
「くだらない見栄を張って、元華族の直系と言うことだけで、決めてしもうた」
「兼弘にも愛情は無く、恵理も兼弘に愛情は無い」

大旦那は、髪の毛を掻きむしった。
「結は・・・恵理の連れ子や・・・兼弘との子やない」
「恵理は、結婚前に、他の男と二股かけ取った」
「その男との子や、後で調べて血液型でわかってしもうた」
「しかし・・・離縁は出来んかった・・・何しろ体面や」
「この九条の名前を傷つけることはできんかった」

次に大旦那の顔に浮かんだのは、憎しみの念。
「恵理の奴・・・本妻を気取り、やりたい放題や、それも、わしに隠れて」
「見ている前では、貞淑そのもの、一族の前では満面の笑みや」
「だから、騙される」
「麗にも、あないなひどいことをして・・・」
「それが見つかれば、一旦はしおらしく頭を下げる」
「・・・見つからなければ、また、もっとひどいことをする」
「いや、何をしでかすか、わからんかった」

大旦那は、また泣きだした。
「だから・・・田舎に里子に出したんや・・・誰も知らないような田舎に・・・」
「我が孫や・・・それも、直系や・・・」
「麗は、弱気な父の兼弘と守れなかった祖父、悪魔の恵理に追い出されたんや」


九条の大旦那が自分を責め続ける中、吉祥寺の香苗は、麗の「母」奈々子と電話で話をしている。

香苗
「九条の大旦那が動き出したね」
奈々子
「仕方ないことやけど・・・寂しい」
香苗
「もともとは、九条のお家の内紛で預かった子や・・・仕方ないけどなあ・・・奈々子さんも辛いな」
奈々子
「御長男の兼弘さんと・・・香料店の同僚の由美ちゃんとの子や」
香苗の声が曇る。
「由美ちゃんは・・・恵理さんに殺された」
奈々子
「そや、毒を盛られたって・・・麗が生まれて2か月の時に、隠れて住んでおった家を見つかってしまったって」
「ただ、毒殺の証拠は、何故か隠された、まあ、九条家の体面やと思うけど」
「それで、九条の大旦那と、うちの兄さんの晃が相談して、うちが預かった」
香苗
「由美ちゃんは殺され、麗ちゃんも恵理さんから、結局追い出されたんや」

奈々子
「それでも、この時期に九条が動くのは、隆さんの重篤もあるけれど」
香苗
「そやな、恵理さんが、外国に旅行中やからかも、何でも四月から半年はおらんらしい」
「また、相当な豪遊やろな」

奈々子の声が震えた。
「麗は、引き取られるんやろか・・・恵理さんと結に、また何をされるか・・・」

香苗も涙ぐむ。
「麗ちゃん、マジで能面や・・・あれから・・・」
「このあいだ・・・桃香が・・・ようやく」

奈々子も泣いた。
「ありがとう、あのまま出来なくなったら、どうしようかと」

香苗と麗の「母」奈々子の電話は長く続いている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み