第408話浜村秘書の終わり 葉子は鈴村八重子の心を掴む

文字数 1,725文字

それに加えて、竹田議員と浜村秘書には、信じられないほどの事態が始まった。
まず、都内の政党本部に出向くと、対応してもらえるのは、かろうじて政党職員のみ。
他の国会議員やその秘書からは、何も声をかけられないどころか、挨拶もされない。
しかたなく、自分からあいさつをしても、ほぼ無視される。
何とか選挙のお願いをしようと幹事長に頼もうとしても、どれほど待っても待合室には呼び出しが来ない。
後から来た議員に先を越されるのも、十人を越え、やむなく政党職員に様子を尋ねても、「順序があるそうです、お待ちいただくしかありません」との素っ気ない態度。

そんな状態が、午前10時から午後4時まで続いたので、さすがに諦めて京都の議員事務所に戻ると郵便受けには、あちこちの店からの請求書が大量、百通を超える。
竹田議員は、それを見て浜村秘書を叱責。
「知らん、俺が入った店と違う!筋もんの店ばかりやないか!」
「浜村が払え!」
しかし浜村秘書は、いつもの薄笑い。
「は?何を言うとります?請求先は議員先生や、知りませんて」
竹田議員は、ますます激高。
「何や?バーにピンサロ?こんなの知らん!」
「報告書に書けん!」
「数枚見ただけで、100万?いや・・・200?300?」
浜村秘書は、薄ら笑い。
「これやと、払わん限り、京の街は歩けませんな」
「軽く刺されますって、河原に捨て置かれて」
「それでも自殺扱いにしときます、恥をさらさんと、ええかもしれませんな」

浜村秘書に、思わず手をあげかけた竹田議員に、妻から連絡が入った。
「浜村の女、数人おったけど、全て縛って、全部吐かせました」
「今、警察に連れていかれました」

その連絡の約10分後だった。
事務書のドアのチャイムが鳴った。
浜村秘書がドアを開けると、スーツ姿の男が数人。
京都府警の名刺を見せる。
「浜村さんですね、事情をお聞きしたいので、署までご同行願います」
「ああ、それから竹田先生は、国会開会中でもあり、その後に」

浜村秘書は力なく連行、竹田議員は震えながら見送ることしかできなかった。


さて、葉子の都内生活は、心配していたけれど、初日から全く順調。
「麗様がやさしいし、高輪もいい雰囲気」
「家も使いやすい、何しろ最先端ばかりや」
「京都とも、奈良とも全然違う上品さや」
「何より、向こう三軒両隣に気を使わん生活、気楽やなあ」
「先に来たお世話係さんたちが、言うわけや、ようわかった」

麗が気にかけていた古今和歌集の原稿の準備も、いろいろ考える。
「たくさんの解説本がある」
「新しい訳をする際にも、麗様なら、出来る限りたくさんの本に目を通す」
「下手をすると、混乱の極みになる」
「何しろ、あちこちの本で、解釈も違う」
「古今和歌集からの派生歌も多い」
「枕草子や源氏へのつながりも深い」
「特に源氏の中に、古今の歌からイメージを導いた帖もある」
「書きだしたらキリがないのが古今和歌集」

そこまで考えると、麗は実に難しいことを引き受けたと思う。
「麗様は、九条の経営も学んで、やがては当主、京都の顔役になる運命」
「東京の学生と京都の二重生活で、それも大変」
「それは大学の先生とか、おばあ様の鈴村さんのご指導もあるけれど」
「とても音楽で遊んでいる時間もない、可哀相やけど」

葉子は、まずは、麗の祖母鈴村八重子に連絡を取るしかないと考えた。
「葉子です、大変お忙しいとは思いますが」
「お願いしたいことがありまして」
鈴村八重子
「はい、葉子さん、今は東京に?なんなりと」
葉子
「麗様が、とにかく大変と思いますので」
「私にも古今を、ご教授を願えないでしょうか」
鈴村八重子はすぐに承諾。
「はい、わかりました、麗様のため、皆のためになります」
葉子からは、もう一つのお願い。
「急な話で申し訳ありません」
「八重子先生のお料理も習いたく」
鈴村八重子は、葉子に感心。
「あら、それも?ありがたいことで、教えます」
鈴村八重子からは、もう一つの協力が追加された。
「由美の得意料理もレシピが残っているので、教えます」
「由美も麗様に食べさせたかったと思うので」
「来週は、麗様とお泊りになられて」
葉子は電話を終えて、胸をなでおろす。
鈴村八重子は、「まあ、気が利く娘さんや、麗様に合う、任せられる」と、その評価を高めている。
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