第412話葵の決意

文字数 1,162文字

翌日、麗が大学に登校すると、いつものように葵が寄って来る。
「奈々子さんも蘭ちゃんも、幸せそうでお元気です」

麗は少し安心、そして葵の気遣いにも感謝する。
「ありがとう、助かります」

葵は、まだ話したいことがあるらしく麗の袖を持つ。
「麗様、来週の火曜日の夜は、ご予定は?」

麗が「ありません」と即答すると、葵はその顔を赤らめる。
「あの、ジャズのコンサートのチケットがありまして」
「はい、お誘いしたいなあと」

麗は、葵の手をやわらかく握る。
「わかりました、ご一緒します」

葵は言葉を足した。
「落ち着いたジャズのカルテットです」
麗は、少し意外。
「葵さん、よく聞かれるのですか?」
「クラシックばかりかと」

葵は笑って首を横に振る。
「いえ、あまり分け隔てはなく・・・あ・・・演歌だけは聞きません」
これには麗も笑う。
「同じですね、コンサートが楽しみです」

葵も麗の手を握り返す。
「いつかは、麗様のピアノも聴きたいなあと」
「今は、確かにお忙しくて」
麗は苦笑。
「こうして都内にいる時だけが、自分の時間のような」
「京都に戻ると、ジェットコースターみたいに」
「一瞬も気が抜けない」

葵は、麗の手をキュッと握る。
「いろんな人とお話をして。大変やと思います」
少し間があった。
「麗様、うちと一緒で気を使います?」
葵の声は、弱めで緊張感も伝わる。

麗は、「また面倒な」と思うけれど、「無難に」返すことを心がける。
「いえ、全くそのようなことはありません」
「こんな可愛らしい人とご一緒できて、幸せです」
その言葉で、葵は耳まで赤い。
「麗様、お世辞が過ぎます、ドキドキするやないですか」

麗は、話題を戻す。
「夏休みに・・・」
「石仏調査もあるけれど」
「音楽好きな人を集めて、音楽会も面白いかも」
「屋敷も広いから、泊りがけでも」

葵も、すぐに反応。
「あら、面白い、参加します、賑やかになりそうです」
「麗様と音楽なんて、ワクワクします」
しかし、すぐに不安を言う。
「銀行の直美さんも、不動産の麻友さん、学園の詩織さんも皆、子供の頃から音楽を習っとります」
「うちが、足を引っ張ると」

麗は、また面倒。
「争うものでもない」と思うけれど、「嫁候補」としては、音楽技術の巧拙も気にかかるのだと思う。
それでも、下を向いてしまった葵が可哀想になった。
「それまでに個人特訓しますか?」
「聞く人に恥ずかしくない程度に」

葵は、途端に、うれしそうな顔。
「はい、麗先生、お願いします」

麗は「結局、個人特訓が目的か」と察したので、脅かすことにした。
「ところで、私の特訓は厳しい」
「蘭は、途中で何度も泣きました」
「ご覚悟を願います」

葵は、脅しには屈しない。
むしろうれしそうな顔。
「最近、麗様の厳しさが、快感になりました」
「もう、何とかして、納得させたくて」
「一生でも構いません、うちは・・・」
そのまま麗の腕を組んでいる。
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