第313話蘭と麗 麗がブログをまとめていると葵から連絡

文字数 1,455文字

蘭は葵から、「麗様から」として、土産の焼き菓子を受け取った。
そして早速お礼のメール。
「麗様、ありがとうございます」
「こういう焼き菓子に憧れていました」
「いつか、一緒に」

麗からの返事は、少ししてあった。
いかにも麗らしい、返事だった。
「独り占めしないで、一度に食べ過ぎないこと」
「それから、来週には落ち着くだろうから、日向先生と高橋先生にお礼に行く」
「その日時、場所はまた連絡する」

蘭は、その麗からの返信を何度も読み返す。
「独り占めしないとか、一度に食べ過ぎない・・・確かに最近、下着がきつい」
「ダイエットなんて、田舎の時は、考えなかったしなあ」
「しっかり見られちゃったな、恥ずかしい」
「でも、来週は一緒に歩ける、うれしいなあ」
「・・・その前に、ダイエットかな・・・」
「二人きりになると、また泣いちゃうかなあ」
「手をつながれたら、絶対に泣く、それで鼻水で叱られる」
「うーん・・・どうしよう・・・」
蘭は、うれしいやら何やらで、結局落ち着かない。


さて、麗は、いろいろと忙しい。
財団のブログで使う式子内親王の歌を選び、ブログを書かなければならない。
そして考え始めた。
「普通の人が知っているのは、百人一首の玉の緒の歌になるけれど」
「最初からそれでは重い」
「そうなると・・・やはり葵祭の後だから」

麗が選んだのは、新古今和歌集の夏の歌から。
「忘れめや 葵を草に ひきむすび 仮寝の野辺の 露のあけぼの」
「忘れることなどはありません、葵草を枕に引き結んで仮寝をした野辺で見た、夜明けの露の素晴らしさは」
「おそらく式子内親王様が賀茂斎院を退いて、程なくしての思い出の歌」
「祭りの前日、葵祭の祭主を務める内親王は、潔斎のため、みあれ野につくられた仮屋つまり神館に泊まる」
「葵を枕に眠ることになるけれど、おそらく緊張感と高揚感で眠れなかった」
「その中で、まだ明けきれない時間に、草の上の露が太陽の光を浴びて、輝き始める」
「神聖とも言える美しさ、それを賀茂の大神からの贈り物として、祭主として受け取る」
「この賀茂大神からの贈り物は、祭主である式子内親王様だけが、受け取るべき特権、それを自覚したのだろう」
「そこでまた、祭主としての責任感、緊張感と高揚感が増した」
「それが、最初の句、忘れめや、の強い表現で示されている」

麗が考えたことを文としてまとめていると、葵から電話がかかってきた。

「麗様、今日は本当に楽しく、ありがたいと」

「いえ、蘭と美幸さんからも、お礼の連絡がありました」
「渡してくれてありがとうございます」

「それから、明日もよろしくお願いします」
「先ほどご連絡いただいた佐藤先生のヴァロア朝の本は面白く」
麗は、少し間を置いた。
「はい、なるべく、その話に持っていきたいと思いますが」
「何しろ、碩学の佐藤先生、どんな話題になるのかとは」
葵は反応が明るい。
「はい!その麗様の気持ち、よくわかります」
「私も、一冊読んだだけで、すごく面白くて」
「それ以外にもギリシャ・ローマから近代史まで、学術書から小説まで」
「数十冊?百冊?それが我が大学でも教鞭をなんて」

麗は、いつもの冷静な声。
「それで、葵様にもお願いがあります」
葵も、それで落ち着く。
「はい、なんなりと」
麗は慎重な物言い。
「九条とか財団の名前を出したくなくて、あくまでも学生として接したい」
「それが、お願いとなります」

葵はすぐに納得した。
「はい、わかります、そのほうが、スッキリとして」

この瞬間、葵はようやく麗と気持ちが通じ合ったと感じた。
そしてそれが、うれしくて仕方がない。
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