第366話麗の個人秘書は、葉子に

文字数 1,137文字

その後、夕食と風呂を済ませ、麗が自分の部屋で古今和歌集を読んでいると、ノック音。
涼香が、入って来た。
「麗様、お茶を」
麗は、ありがたいと思った。
「助かります、今、飲みたいなと」
涼香は、顔を赤らめる。
「いいお風呂でした?」
麗は、むせそうになるけれど、「はい」と静かに答える。

涼香は麗の持つ本に目を向ける。
「古今ですか?」
麗は頷く。
「再び、読みなおしています」
「なかなか趣向を凝らした構成かなと」

涼香は麗の後ろに回った。
そして、麗の肩を揉み始める。
「ガチガチです、ほんま」
「忙し過ぎでは?」

麗は、年上の涼香に肩を揉まれるのが、恥ずかしい。
「大丈夫かな、まだ若いです」
涼香は、更に揉む力を強くする。
「そんなことありません、張っています」

「仕方ないな」と、麗が涼香に委ねていると、涼香が話を戻した。
「麗様、お世話係が皆、麗様の忙しさを心配しとります」

麗は、どう答えていいのか、わからない。
それが九条家の後継、次席理事として、当然の職務ではないか、それを忙しいとか、肩が凝るなどと口に出して言うのは、適当ではないと思う。

黙っている麗に、涼香が話を続けた。
「お世話係たち、皆は麗様のお世話をするのが仕事」
「ですから、少しでも、楽になるように、お手伝いをしとうて」
麗は、涼香の話の先が見えない。
「と言いますと、具体的には?」

涼香は、麗の正面に回った。
そのまま、麗の手を取り、ハンドマッサージ。
「実は・・・お世話係の中から、特定の秘書を」
「いかがでしょうか」

麗は、当惑。
「一週間交代、という決まりでは?」

涼香は、やさしい笑顔。
「はい、それはもちろん、全員楽しみなので」
そして言葉を続ける。
「葉子さんが、秘書の資格をお持ちです」
「一週間交代でのお世話係は、決まり通りに」
「それとは別に、葉子さんを特定の個人秘書に」
「お世話係たち、皆で話して、どうかなと」

麗は、少し考える。
「葉子さん・・・日本史とか古文の専門家で」
「奈良出身で、秘書検定まで」
確かに、関係筋の銀行の直美、不動産の麻友、学園の詩織よりは、常時九条屋敷にいる。
つまり麗が九条屋敷に戻れば、すぐに話ができるということになる。

それでも、気になることがあった。
「葉子さんが都内で、お世話係をしている期間は?」

涼香は胸を張った。
「それは、私たちの中にサブを作って、葉子さんに連絡をするので問題ありません」
「葉子さんは、いつも冷静で、控え目、頭も切れます」
「大旦那様、五月様、茜様も、葉子さんならと、納得しておられます」

麗は、それでも慎重。
「一度葉子さんと、しっかり話してみます」

その麗に涼香は意味ありげな顔。
「遠慮なさらず、それで」

その顔は、麗が最初に九条家に戻った夜に、葉子の湯女を遠慮、拒否した一件をほのめかしていることは間違いがない。
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