第61話昼食の後、「源氏物語継子問題」の深いテーマを提示される。

文字数 1,371文字

麗は、大学講師麻央の家で、その妹佐保も加わった中での昼食を摂る。
相当な違和感があるけれど、不快感はない。

「京都の九条のお屋敷の料理の気まずさに比べれば、なんてことはない」
「恵理さんも結さんも、いつも見下げたような、射るような目で」
「茜さんと、茜さんのお母さんの五月さんは、仲良くしてくれた」
「大旦那が来ると、恵理さんと結さんは、途端に態度が変わった」
「食べられるような気がしなくて、いつも胃が痛くなった」
「結局残して、父さんと母さんに、ひどく叱られた」

そんなことを思い出しながら、チーズリゾットを少しずつ食べる。
少しずつなのは、リゾットが熱いためと、胡椒にむせそうなため。

佐保が麗に声をかける。
「どう?麗君、お口に合う?」

麗は、素直に答える。
「はい、いつもコンビニ食で、温めることもないので」
「出来立ての食事は、久しぶりです」
「チーズも・・・ミルクも、お米も・・・信州産ですか?」
「両方とも、ふくよかな味です」

佐保は、また目を丸くする。
「あらら・・・よくわかる・・・すごいなあ」
「魚沼コシヒカリに引けを取らない味、それに信州産のチーズとミルク」

麻央は自慢げな顔。
「でしょ?味覚と嗅覚、文才、源氏の学識は保証します」

佐保
「それで助手にしたかったんだ、よくわかる」
そして、麗の顔をじっと見る。
「私も助手にしたいなあ、出版社でバイトってどう?」

麗は意味不明なので首を傾げる。

佐保はにっこり。
「うん、あちこちの取材に同行して欲しいなあ、私が写真を撮るから、麗君が文を書く、料理を一緒に分析」

麻央は、クスクス笑っているけれど、麗は少し引く。
「いえ、まずは麻央先生のお手伝いが先です、物事には順序というものがあります」

そんな状態で、麗にとっては本当に久しぶりの昼食を終わり、麻央の手伝いをすることになった。
尚、手伝いをする部屋は、リビングの隣の書斎、すでに源氏関連の書籍が多く積み重ねられてあるので、事前に準備が出来ているらしい。
また、佐保も書斎に入って来たので、何らかの手伝いをするらしい。

「さて・・・そこで・・・」
麻央は、まったく大学の講義と同じ口調に変わった。
麗は、まじめな顔で麻央を見るけれど、佐保は苦笑している。

「テーマとしては、源氏の重要テーマである継子いじめ」
「要するに実子ではない子供をいじめる話」

麗は、あれこれと考える。
「光源氏そのものが、弘徽殿女御からすれば継子、とかく嫌われた」
「紫上もそうかな、母は兵部卿宮の正妻ではなく、その母も早く死に、正妻からは疎まれ」
「光源氏と明石の君との娘明石中宮は紫上が育てた、紫上の賢さに無難に育てられた」
「玉鬘・・・夕顔の娘、実の父頭中将は認知もせず、認めたところで正妻に頭が上がらず、引き取られる可能性もなかった。源氏が偶然にも引き取ったから運命が開きだした」
「藤壺と光源氏の不義の息子冷泉帝もそうかなあ、それを知った冷泉帝が実父光源氏を准太上天皇に担ぎ上げ、」
「それが一因で源氏は女三宮を引き受け、その女三宮が柏木の密通により不義の子、薫を生む」
「浮舟も八宮の隠し子」
「実に文章化すると、困難」

佐保は考えている麗をチラチラと見て、麻央に。
「ねえ、すごく深くて膨大なテーマだよ、やり切れる?」

麻央は、麗を見た。
「それだから、麗君を呼んだの」
「ねえ麗君、だから手伝って」

麗は、腕を組んで考えている。
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