第482話奈良小旅行(4)東大寺から不空院に

文字数 1,278文字

「これは・・・美しい・・・」
麗には珍しく、浮いた声。
それにつられて女性たちが狭い四月堂の中に入る。

「十一面観音様や・・・」
「はぁ・・・可愛らしい・・・美少女や」
「スタイルもよくて、ゴテゴテしとらん」
「この可愛らしさは、阿修羅と同格や」
「やさしいお顔や・・・ほんま」
「うち、こんな可愛い観音様見たの、初めてや」

麗は、ろうそくや線香を買い求め、火を灯し、拝む。
その麗の動きに、同行者がすべてならう。

そんな麗は、四月堂を出て一言。
「一生見続けられる可愛らしさかな」

「ご縁があると思うよ、そういう仏様」
麗はやさしい顔になっている。
「大事にしたいと思うよ、本当に」
「何か、不思議だけど、救われたような気がする」

麗の珍しい発言の後は、三月堂を見学。
そして二月堂にのぼり、奈良の街を眺める。
ここでも女性たちが、賑やか。
「お天気もよくて、ええ眺めや」
「ほんまや、気がすうっとする」
「清水さんとも違う、解放感がある」
「奈良もなかなかや、おおらかな雰囲気や」
「楽しい旅行やなあ、毎週でもかまわん」

その後は、大仏殿まで降りて見学。
ただ、観光客も多いので、あっさりと出てしまう。

南大門を通り過ぎると、三条執事長。
「そこの駐車場にサロンバスを回しておきました」
麗はホッとして感謝。
「助かります、歩きだと大変なので」
茜も笑顔。
「ほんま、マジによく歩いた、でも旅行らしくて気持ちがいい」

一行はサロンバスに乗り、高畑方面に。
新薬師寺前でバスを降りるけれど、先に至近の不空院に入る。
不空院は、山号が春日山。
その山号の通り、春日山を背に不空羂索観音を本尊とする真言律宗の古刹。
約1300年前には、鑑真和上の住居とされ、井上内親王の邸宅であったことから、その御霊塚が残る。
また、ここに足を運んだ弘法大師にちなみ、「福井之大師」とも呼ばれ、「女人救済の寺」としても知られている。

麗は、お堂の中にある紋に注目。
「やはり春日大社の紋と同じですね」
不空院の僧が説明する。
「はい、この高畑は春日大社の神職が住まわれた社家町、関係は深いものがあります」
「ご本尊は、ご覧いただいております不空羂索観音様」
「それ以外に、女性の救済と庇護に尽力される宇賀弁財天女様」
「真言律宗の寺でございますので、不動三尊像もご覧ください」

麗はしばらく、様々な仏像を眺めた後、散華を購入。
購入者の署名を求められたので、九条麗と署名。
僧は、本当にうれしそうな顔。
「ありがたいことです、麗様」
麗は少し微笑む。
「身分とか立場に関わらず、お話をお聞きしたかったので」
また、麗に続いて、一行は散華などを買い求める。
僧は合掌、頭を下げる。
「あまりご有名なお寺でもなく、わざわざのお越しで、感謝します」
麗も、頭を下げる。
「何か、深いご縁を感じます」
「これからも、九条家として、その前に九条麗として、奈良に寄った時は、拝ませてもらいます」

茜は、そんな応対をする麗を見て思った。
「ほんま、やさしい顔になっとる、いつもの能面やない」
「東大寺の四月堂の十一面観音様を見た時からや・・・雰囲気が変わっとる」

麗の一行は、不空院を出て、新薬師寺に向かう。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み