第216話吉祥寺の料亭にて(2)

文字数 1,212文字

「確かに幼なじみですが、今日はお客の立場で来店しているので」
麗は、少し考えて、慎重に答えた。
山本由紀子には、桃香が九条家後継を意識しているなどとは言いたくない。
そもそも、山本由紀子にも、自分が九条家後継などとは知られたくない。
あくまでも、個人としての麗として、接してもらいたいと思っている。

山本由紀子は、それ以上には聴いて来なかった。
「まあ、そうかな、お料理が楽しみ」
と、やさしい笑顔を麗に見せる。

麗が、本当に安心できる人と思っていると、前菜が運ばれて来る。
飯蛸桜煮、蒸し貝、帆立、ミル貝、分葱、山菜の天婦羅など。

山本由紀子は、本当にうれしそうに目を閉じて味わう。
「ほんと、すごいなあ、味の宝石だよ、麗君、ありがとう」

前菜の次は、吸い物で、すっぽん丸鍋。
これも山本由紀子は大喜び。
「はぁ・・・こんな高級料理、本では見たけれど、初めて」

麗も、その笑顔で食欲が出る。
「喜んでいただいて、うれしく思います」
その後も、極上の料理が続き、二人とも美味しいので会話は少ない。


さて、料理を出しては戻って来る桃香は、複雑な顔。
「いい雰囲気やけど」
「麗ちゃん、口数が少ない」

女将香苗は、また違う評価。
「麗ちゃんがペラペラしゃべるほうが変や」
「でも、山本さん、本当に麗ちゃんを気に入っとる」
「そうでなければ、誘いには乗らんし、あんな笑顔を見せない」
「麗ちゃんも、いいお姉さん見つけた」

桃香
「男女は恋仲だけではないのかな」
「麗ちゃんとは・・・7歳くらい離れとるし」

女将香苗は、首を横に振る。
「いや、それはわからん、麗ちゃんの年頃の男の子は、それくらいの年齢差の女性は憧れるし、女性かて、好きになれば可愛くて仕方がないもの」

桃香は、それで焦る。
「またしても強敵出現?」
「お嫁さん候補に、お世話係がいて・・・」
「うちの目がないやん」

香苗は、その桃香に含み笑い。
「鎌倉の瞳さんから連絡あった」
「明日は、麗ちゃん、鎌倉の香料店に高橋先生の妹さんと取材やて」
「美里ちゃんが、メチャ張り切っとるって」

桃香は、頭を抱えた。
「うー・・・美里まで・・・あいつ・・・気に入らん」

香苗は、それよりも麗を気にしている。
「なあ、桃香、麗ちゃん、食べきれるやろか」
「つい、気張って献立多くしてしもうたけど」

桃香は、ようやく気持を落ち着けた。
「うーん・・・残し気味やけど、前よりは食べとる」
「お造りは何とか」
「焼物のぐじ若狭焼きは少し残した」
「この後、重たいのはフィレステーキ、釜炊き桜海老と大根の御飯」


そんな心配をよそに、麗は残し気味ながら、最後の果物まで、食べ終えた。
麗としても、自分が招いた以上は、恥ずかしい思いはしたくなかったようだ。

そして、もう一つのお礼、九条財団からの旅行券を渡す際には、少し威儀を正した。
「山本さん、本当にありがとうございました」
「ほんのお礼になります、お受け取りください」

山本由紀子は九条財団と書かれた白い封筒を受け取り、また目を丸くしている。
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