第268話麗の厳しさ 詩織と葵の違い

文字数 1,164文字

麗は言葉を続けた。
「九条家として、九条財団として、源氏物語に関する文を世に出す以上は、それなりの自覚と責任があります」
「軽めのブログにしても、おさえるべきポイントは外してはならない」
「それを軽々に思いつきのままで世に出せば、どういう反応が返ってくるのか」
「特に京都の街衆など」

この麗の言葉の厳しさには、詩織だけはない、葵も茜も、恐れるような、そして震えるような状態。
詩織
「軽く考えてしもうて・・・ただ知らない人に和歌を通じて源氏の雰囲気を・・・くらいで」

「うちもそう思います、そこらの学者が出す、責任がない文やないもの」

「麗ちゃんの言葉が厳しいけど、正解や、ことは慎重を要する」

麗は、特に詩織が下を向いていることが気になった。
そして、ここで泣かれても困ると思ったので、やわらかく声をかける。
「詩織さん、話を受けないとは言っておりません」

詩織は、やはり涙目になり、麗を見る。

麗は,やさしめの声。
「もう少しコンセプトを明確にして」
「私も力不足ながら、興味はあります」
「具体的にどういうスタイルで書くか・・・」
「それをしっかり検討するべきと思うのです」
「次に私が京都に戻った時に検討会を開きましょう」

詩織の顔が、輝いた。
「はぁ・・・ありがたいことで・・・」
「うち、もう胸がドキドキしてきました」
「うちは、毎週でもかまいません」

麗は、慎重。
「それは必要に応じて」

葵は慎重に麗の顔を見る。
「・・・あの・・・私が参加しても?」

麗は、少し考えた。
「参加自体は、問題ではありません」
「問題となるのは、有益な意見が無いこと」

茜も頷く。
「麗ちゃん、厳しいけど・・・」
「でも・・・そうやね・・・九条家やもの」
「和歌とか源氏は、知識が並以上にないと、恥ずかしい」
「お互いに勉強を深めることに損はない」

詩織は、少し考える麗を見て思った。
「はぁ・・・救われた・・・」
「いい加減な文章で恥をかかんですんだ」
「麗様が正論やった、九条家やもの」
「それに、ある程度は、定例で逢えるのがうれしい」

しかし、参加を申し込んだ葵が面倒。
「麗様を独占できん・・・」
「それに、葵のほうが勉強してくると、麗様の関心が葵に向く」
「マジに勉強せんとあかん」

麗が突然、歌を詠んだ。
「かぎりとて 別るる道の 悲しきに いかまほしきは 命なりけり」

詩織は、その美しい詠み方に、トロンとした顔。

葵は、さっと現代語訳をする。
「定めだからとは申しますが、別れた道を行くのは悲しくてなりません」
「私が行きたいのは死出の道ではなくて、生きる道」
「本当は、もっと生きたかったのですが」

茜は、詩織と葵を交互に見る。
「やはり詩織さんは直情型、葵さんはもう少し考える」
「麗ちゃんが桐壺更衣の歌を詠んだ意味を、詩織さんは理解しているかどうか」

ただ、詩織は麗をトロンとした顔で、見つめるばかりになっている。
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