第211話葵は麗から少しでも離れたくない

文字数 1,203文字

麗は、現時点での結論を言った。
「お話は確かに承りました」
「京都本家とも相談した後に、お答えいたします」

高橋所長が少し慌てた顔になると、葵も高橋所長に声をかけた。
「高橋所長は、席を外してください」
「私、麗様と少し、お話をしますので」

高橋所長は、一礼をして、応接室を後にした。

葵は麗を見て、不安な顔。
「何か、問題があるのですか?」
麗は、表情を変えない。
「いや、もう少し確認したいことがあるので」
「全ては、一度京都に戻ってからの返事にします」

葵は、麗の表情が頑ななことを見て、話題を変えた。
「茜様から、ご連絡を受けております」
麗が、葵の顔を見ると、鞄から白く上質な紙の封筒を取り出した。


「明日の夜、吉祥寺の香苗様のお店で。接待をなさるとか」
麗は、少し気分を害する。
何故、そんなことを葵に言うのか、茜の意図がよくわからない。

葵は、少し頭を下げた。
「京都本家のご意向で、その接待をされる御相手に、京都関西の旅行券をとのことなのです」
「この九条財団でも、京都関西の旅行を取り扱いしておりますので」

麗は、ますます気分を害した。
「あくまでも、俺と山本由紀子さんの話」
「それに、九条家まで介入してくるのか」
「確かに、命を救ってもらったかもしれない」
「しかし、そこまでは、やり過ぎではないか」

ただ、違うことも思った。
「山本由紀子さんも、たまには京都関西も旅行したいかもしれない」
「確かに俺が考えていたのは、香料店の晃さんからもらった香料の使い回しだ」
「それよりは、いいのかもしれない」
「由紀子さんが行けなくても、あの古書店の親父が京都関西を歩くのも面白い」

結局、麗は葵から、封筒を受け取った。
そして、接待の相手も、葵に告げた。
「大学の図書館の山本司書さん」
「少し体調が悪い時に、有給まで取って助けてくれた」
「だから、お礼がしたくて」

葵も、麗に頷いた。
「はい、それは、大切なことと思います」
「麗様にとっても、九条家にとっても」
「それから、私たちにとっても」

麗の顔が、少しだけ和らぐ。
「この靖国通りを歩いて行くと、神保町」

「はい、私もよく歩きます」

「そこに山本古書店があって、そこの娘さん」
葵は面白そうな顔。
「へえ・・・知りませんでした」

「あそこの店主が、面白いよ」
「最初は、無愛想だけど、話し込むと、話題が豊富で」
「滅多に手に入らない古代ローマの歴史本とか、式子内親王様の本も探してくれて」

葵は、珍しく話が続く麗を見て思った。
「麗様は、こういう話が好きなのかもしれない」
「複雑なところはあるけれど、面白いと思ったことは、突き詰めたいのかな」
「私も趣味が近いから良かった」
「時々、ハラハラさせられるけれど・・・離れたくない」

麗は突然、ソファから立ち上がった。
「これから神保町に寄って帰ります、葵さん、今日はありがとう」

葵は、本当に焦った。
「お願いします!私も連れて行ってください!」
驚く麗の袖を、葵はしっかりと掴んでいる。
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