第409話麗の葉子に対する評価は高い 山本由紀子との豪快会食

文字数 1,347文字

葉子と麗の東京での生活は、月曜日、火曜日と全く無難。
心配された京都の政治家連中からの連絡もないので、二人とも胸をなでおろす。
そして、水曜日の朝になった。
今日の夜は、図書館司書山本由紀子との会食の予定がある。
葉子は、麗に小箱を手渡す。
「本日のご会食の際に、山本由紀子様にお渡しください」
麗は、小箱の中身をすぐに理解。
「花散里のお香ですね、荷葉」
「夏の薫物、しめやかで、しみじみと心を惹かれる香り」
「本当に助かります」

麗は高輪の家を出て、登校。
電車の中で、葉子の素晴らしさを実感。
「花散里のお香か、しめやかで、しみじみとしているけれど、決して暗くない」
「夏の疲れを癒すような香り」
「贈り物は、葉子さんが考えますと言っていたので任せたけれど、期待以上だ」

「土曜日からお世話係をしてもらっているけれど、全く自然」
「気持ちの行き違いもなく、無理に求めて来ることもなく」
「だから、身体も楽なのかもしれない」

一日の授業を終え、麗が約束の午後4時半に図書館に出向くと、山本由紀子が頬をあからめて待っている。
麗は丁寧に頭を下げる。
「今夜はよろしくお願いいたします」
途端に、山本由紀子は笑う。
「そんなお上品過ぎ」
「下町に行くの、隅田川沿いだよ」

その後は、私鉄、地下鉄を乗り継いで築地に到着。
清潔で上品な小料理屋に入る。
山本由紀子
「個室を予約したの、落ち着いて話せるから」

麗は、店内を見回して、ホッとする。
少なくとも、政治家連中が待ち構えていた祇園の料亭のような嫌悪感はない。
下品な香りも漂わず、声をかけて来る店員も、キビキビと動く。
「お化粧たっぷりの中年仲居女連中の気持ち悪いほどの愛想笑いも無く」

個室に通されると山本由紀子
「あのね、和食風の外観だけどね」
「和洋中、エスニックまで何でも作ってくれる」
「地元の下町料理も美味しいし、迷っちゃうほど」

麗は、そんな山本由紀子の笑顔が眩しい。
年上になるけれど、笑顔が童女、ずっと見つめていたくなる。

そんな麗を山本由紀子は、また笑う。
「もう!麗君、おばさんを見つめないの、照れるしさ」
「最初はお刺身にするよ、どんどん食べて」

刺身が運ばれてくるのも、実に早い。
そして、実に新鮮。

「イカがこんなに甘いなんて、田舎で漁港も近くにあったけれど」
山本由紀子
「イカぐらいで驚かないの、もっとモリモリ食べて、ここは下町」
麗も、食が進む。
「ブリもハマチも・・・マグロも・・・甘くて」
「さすがに港が近いと、すごいなあ」

確かに京料理も美味しいし、技巧の高さは言うまでもない。
しかし、京都市中と港は遠い、どうしても冷凍物が多くなる。
野菜はともかく、刺身の新鮮さでは、京料理は一歩も二歩も落ちる。
しかし、麗がそんなことを考えている余裕はない。
とにかく、山本由紀子は上機嫌、ポンポンと料理を注文してしまうのだから。

刺身の後は、いきなりスペインに飛ぶ。
スペイン風オムレツは当然、イベリア黒豚の生ハム、スペイン風四角いコロッケ、細長いまマテ貝の鉄板焼き。

こうなると、麗も難しい話を考えることもできない。
「美味しい、すごい!こんな味知りませんでした」と、爆食気味。

山本由紀子は、胸を張る。
「ほら、すごいでしょ?だから任せてって言ったの」

そんな山本由紀子を見た麗は、実に解放感、とにかく楽しくて仕方がない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み