第18話悪夢

文字数 1,362文字

桃香が帰った後、麗はしばらく放心状態。
ただ、放心状態であっても、身体は動く。
飲み終えた珈琲などの洗い物、洗濯やお風呂は、機械的にこなす。
髪もしっかり洗い、ドライヤーで乾かし、ベッドに横たわる。

「マジで変な一日だった」
「高橋麻央に古典文化研究室に連行されて」
「まさか香苗さんと桃香がいる料理屋に行くなんて」
「三井嬢も日向先生も、実はどうでもいい、直接単位には影響ないはず」
「でも、不思議だ、桃香は何故、大騒ぎする?」
「何故、俺にむしゃぶりついて泣く?」

いろいろ考えるけれど、麗は心が浮き立つことは無い。
それ以上に、今日一日の思いがけない「お付き合い」が面倒で仕方が無い。

「何があっても、今後は古典文化研究室には行かない」
「誘われても、都合があることにする」
「都合として、バイトするとかの理由を作る」
「バイトを休めとか、やめろとまでは、まさか言わないだろう」

再び、香苗と桃香の顔が浮かんだ。

「スマホのアドレスは教えていないけれど」
「まさか母が言うのかな・・・実にそれも面倒」
「食べようが食べなかろうが、俺の身体で、俺の勝手だ」
「健康を害するのも、俺の勝手」
「いらぬ心配される方が、実に重い」

明日の講義も少し思い浮かべる。
「古代ローマ帝国か・・・それは興味ある」
「よほど、勉強したい、源氏はともかく」
「永遠のローマの陽光の中、カエサルの大演説を聴く、アウグストゥスの周到な政治分析に耳を傾ける」
「うん・・・そのほうが向いているかもしれない」

麗は、明日の古代ローマ帝国講義を思い浮かべた時点で、身体の疲れを感じた。
「寝るか・・・眠いや・・・さすがに・・・」
時計を見ると、午前2時。
古代ローマ帝国の講義は、午前10時半から。
麗は、「これで朝飯カット」と、思いながら目を閉じ、あっと言う間に、眠りに落ちていく。


麗が眠りに落ちて1時間ほどだろうか。
その息苦しさに、目を少し開けて見た時計は3時を表示している。
しかし、胸にかなりの重みと痛み、首には特に絞められているような息苦しさを感じる。

「どうして?何故?」
麗は懸命に声をあげるけれど、とにかく身体が全く動かない。
「金縛り?」
かろうじて頭の中は動くけれど、身体はやはり動かない。

それでも麗は、必死に目を開く。
すると、髪を振り乱した若い女の顔。
どこかで見たような気がするけれど、まだ誰かは判別できない。

その若い女が、射るような目つき、麗にいきなり吠えた。
「この恨めしい・・・麗!」
「お前なんか、死ね!地獄に落ちろ!殺してやる!」

その若い女が吠えるたびに、麗の身体が硬直する。
硬直しながら、麗は、その若い女の名を思い出した。
「恵理さん?恵理さんなんだろ?」
麗は苦しい声を必死に振り絞って名前を呼ぶ。

麗に恵理と呼ばれた若い女の口に、鋭い牙が生えた。
「は・・・今更・・・」
「ここで死ね!地獄へ連れて行く!」
麗は懸命にもがき叫ぶ。
「恵理さん、そうじゃない、違うんだ!人違いだ!」

恵理が「うるさい!地獄に落ちろ!」とまた叫んだ時だった。
もう一人の若い女性の声が聞こえて来た。
「恵理さん!違う!麗君じゃない!」
「麗君!逃げて!」

麗が必死にもう一人の女性の声の方向を見る。
そして、その女性の顔を見た途端、麗の身体がまた、震えた。
「え・・・まさか・・・」
驚いて声を出した瞬間だった。

麗は気を失ってしまった。
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