第346話蘭は石仏会議の前に九条家を辞する。石仏会議の開始。

文字数 1,528文字

蘭は、麗の表情から、「その不機嫌さ」を察した。
そして、石仏の会議には、出席せずに九条屋敷を辞した。
表向きは「急な用事ができまして」ではあるけれど、真意は関係筋のお嬢様たちやお世話係たちとの「身分の格差」への遠慮。
いかに九条屋敷や、関係筋のお嬢様たち、お世話係たちから歓待されているとは言っても、そもそも午前中から始まって、午後の会議まで一緒となると、完全にその身分を超えたことになる。
そして、陰湿極まる京都の社会で、そんなことをしでかしたなら、いつまで陰口を言われるか、考えただけでも恐ろしいことになると思った。

「なんや、麗様に甘えて?」
「そもそも何で、この屋敷に、まだおるん?」
「午前中は急なことやから、まあ許すけどな」
「呆れるわ、おだてれば跳ね上がって」

蘭としても、関係筋のお嬢様たちの内心など、簡単に想像がつく。
そもそも蘭は、京都出身の母奈々子から、「京の、そんな類の話」を、散々教育されて育っている。
だから関係筋のお嬢様たちの、「表面上の笑顔」には、そんな侮蔑の感情が隠されていることは、よく理解している。
それに「残りたい」などと言って、これ以上麗を困らせたくなかった。
だから、蘭は昼食の場所から、麗を追わなかった。
茜と五月にだけ、「急な用事」と言い、麗の視界に入らないように、九条家を辞したのである。


さて、会議室に入った麗は、茜から蘭が帰った旨を聞かされ、安堵する。
「蘭もわかっていたか、それでいい」

茜は、残念そうな、寂しそうな顔。
「うちは、構わんけどな」
「後でフォローしとくわ」

麗は首を横に振る。
「もともと蘭が石仏調査をするわけでなし、部外者だよ」
「蘭にとっても、意味はない、時間の無駄」

麗としても、「当然の筋」を言う。
蘭を「可哀想と思っている」茜を困らせたくなかった。

ただ、九条家の後継が「筋」を曲げることは、絶対にしてはならないと思うし、その上で蘭が大泣きになろうと、決して甘い顔を見せてはならない。
「それが京社会のためでもあり、蘭のためでもある」
いつの間にか、自分の論理も、大嫌いな「京社会の論理」を使うようになっていて、実に不愉快になるけれど、観念するしかないと思う。
「俺が京社会の論理を崩せば、混乱と困惑しか生じない」
「俺だって、昨日九条の次席理事に就任したばかり、早速崩すわけにはいかない」


麗が、能面に隠して、そんなことを考えていると、お世話係たちが関係筋のお嬢様たちの前にお茶を配り終えた。

麗が茜に視線を送ると、茜が司会。
「さて、来週が第一回目の石仏調査準備会議」
「今日は、そのための事前打ち合わせになります」
「まずは、リーダーの麗様からご挨拶を」

麗は、着席のまま、あいさつを始めた。
「本来は、立つけれど、今日は格式張らず」
「まずは午前中の下鴨神社ご参拝、香料店の後継隆さんの見舞い」
「本当にお疲れ様でした」
「さて、今日の会議は、石仏調査の実務上の方向性を決めるための話し合い」
「この方向性次第で、混乱が抑えられるので、どうすればスムーズに調査が進み、また情報の集約ができるのか、それらについて、忌憚のないご意見をいただきたいと存じます」

まず、葵が手を挙げて発言。
「まず、一人一体ということ」
「写真を撮る、その場所、わかる範囲での由来の収集ということです」
詩織も積極的。
「学園の生徒にも呼び掛けてあります、参加希望者も多くて」
「調査担当地区も決めて欲しいとか」
直美
「収集したデータを集めて分類できるPCシステムを作りましょう、効率が高まります」
麻友
「既に役所と自治会、寺社からも内諾を得ておりますが、私たちも一度、ご挨拶を」
美幸
「麗様が京都におられない時の事務局も決めましょう」

などなど、麗の予想以上に、具体的な発言が続いている。
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