第136話香苗の分析  蘭の期待

文字数 1,154文字

桃香は泣きはらした顔で、吉祥寺の料亭に戻った。
その桃香に香苗が声をかけた。
「ご苦労さん、辛かったな」

桃香は、苦しくて何も言えない。

香苗
「もし、辛いようなら、少し休んでもいいよ」
「その顔では、お店に出せんし」

桃香は、結局、そうするしかなかった。
心も辛すぎ、顔もボロボロになっていたから。
「少し休みます」と必死に声を出し、自分のアパートに帰った。

香苗は、その後ろ姿を見てため息をつく。
「しゃあないな、麗ちゃんが九条の家に戻ると決まった以上は・・・」
「生きる世界が違う」
「それに、桃香が嫁にはなれないのは、わかっていたはず」
「麗ちゃんが桃香を好きでも、九条家には迎えない」
「あるいは好きだから迎えない場合もある」
「どれほどの苦労がかかるのか、それを思えば、桃香では無理」
「すぐに感情的になるし、口も悪い心もひねくれた京都の連中に足元をすくわれ」
「苦しむだけやもの、結局」

「愛があれば?そんな仲良しこよしは通用せんのや」
「特に・・・京都の女ども・・・」
「男が大目に見ても、女は最後まで苛め抜く」
「特に格下の女は・・・」
「恵理という実例を見ているはずや、桃香も」
「麗ちゃんの得意の源氏で言えば、弘徽殿女御と桐壺更衣」
「苛められて死ぬんや、格下の女が身分不相応のことになれば」
「それが京の女のしきたりや、それは崩せんのや」

香苗は麗が、そんな思いがあって、桃香を無視したのだと思う。
「下手にやさしい顔を見せると、桃香はついて行くと言い出す」
「あの子は、そんな衝動的な子やから」
「そしてついて行って、地獄を見る」
「麗ちゃんは、自分が行きたくない京都に、桃香を連れて行きたくないんや」
「麗ちゃん、けっこう深いな」
香苗は、麗の動きを好ましく思っている。


さて、麗の「妹」だった蘭は、母奈々子から麗が九条家に戻ることを教えられた。
そして、今は新幹線で京都に向かっていることも。


「ますます、縁遠く?」
「もう逢えないの?」
奈々子は、首を横に振る。
「逢えないということはない」
「近くに住むようになるはず」

「え?それは?」
奈々子
「この家を出て、麗ちゃんのアパート、同じ部屋でないかもしれないけれど」
「そこに住むようになるよ」

蘭は驚いて声も出ない。

奈々子
「大旦那の命令で、麗ちゃんのアパートを九条の財団で買うの」
「それで、もうすぐ一軒空きが出る」
「そこに入るの」
「蘭の高校の転入は、大旦那が手配するとも、五月さんが教えてくれた」
「麗ちゃんの大学の系列高校みたいや、中野にあるって」
「ある意味、麗ちゃんの健康管理もある」
「何しろ痩せているって話だから」

蘭は、途中から華奈々子にむしゃぶりついて、泣き出した。
「麗兄ちゃんに逢える?」
「逢いたいよ・・・」
「毎日、逢いたい」
「邪魔って言われても、押しかける」

奈々子は、蘭の背中をずっと撫でていた。
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