第226話佐保も九条財団に?興奮する佐保

文字数 1,283文字

鎌倉から都内に戻る電車の中、佐保は身体が熱くて仕方がない。
出来れば、麗を抱きたいし、抱かれたいと思うけれど、麗のアパートにはお世話係がいるとのこと、どう考えても、そんな「行為」は無理。
かといって、乗り換えをしてまで、自由が丘の実家に連れ込むのも、恥ずかしい。
そのもどかしさが、ますます佐保の身体を熱くするけれど、麗はいつもの無表情。
冷たさまで感じさせるほどの美顔で、車窓から外の景色を眺めている。

佐保は懸命に気持をおさえて、麗に話しかける。
「原稿はお願いできる?」
麗は、頷く。
「はい、今晩中にはメールで送ります」
そして、いきなり佐保の顔を見た。
「雑誌が発売されるまでに、香料店の名前が変わります」
佐保は、目を丸くする。
「え?麗君、どういうこと?」
麗は佐保の顔を見つめたまま。
「九条の名前が入ります、その名前で雑誌に出したい」
「記事もそれを意識した内容に」
佐保は、ようやく理解した。
「それで、店主とお話していたんだ」

麗は、話題を変えた。
「ところで、佐保さん、今の出版社に愛着はありますか」
佐保は難しい顔。
「うーん・・・人間関係が・・・」
「独善的な女上司がいるし・・・」
「神保町の街並みは好きだけど」
麗は、頷いた。
「そうですか、どうしても勤め続ける愛着がなければ」
佐保は、首を傾げた。
「麗君、何かあるの?」
麗は、佐保の顔をしっかりと見た。
「九条の財団で、カメラマンが高齢なので、どうかなあと」
「この間、社員名簿を見ていて、そう思いました」
「それで昨日、直接彼と話をして、後継者が欲しいとか」

佐保は、麗の言葉で、肩の力が抜けてしまった。
「マジ?あの名門九条財団?」
「確かにあそこで、仕事ができれば名誉」
「時々写真集も見るけれど、超美麗で・・・」
「すごく技術が高いカメラマンとは知っている」
「そんな人と一緒に?」
頭が混乱して、少々の不安も感じる。

麗は、真面目な顔のまま。
「日向先生も、佐保さんのご両親も、麻央さんも御協力関係になるんです」
「佐保さんも、お誘いしようかなと、これも縁かなあと」

佐保はこの時点で、我慢出来なかった。
麗の腕をいきなり組んでしまう。
「はい!お仲間に!」
身体を押し付け気味に迫る。

しかし、麗は、表情を変えない。
「まずは、今日の香料店の記事を、しっかりと仕上げること」
「それは、今の出版社への礼儀として」
「それから、お香文化の、より良い発信のため」

佐保は、うれしくて仕方がない。
「当り前だよ、麗君、プロだもの」
「はぁ・・・やる気が出て来た」
と、ますます身体を押し付ける。

麗は、その押し付けの強さに、少々押されながら、また冷静。
「一度、九条財団のカメラマンとお話をして」

佐保も、それは納得、
「うん、熟練の技術を教えて欲しい」
「なれあいで、仕事もしたくない」

佐保は、麗と渋谷駅で別れた後も、興奮気味。

「すごいや、麗君、福の神?」
「付き合えば付き合うほど、幸運が舞い込んで来る」
「もう、あんな出版社とお別れか・・・仕事はきっちり仕上げて・・・」
「あの大嫌いな女上司と別れて、九条財団?」
「写真の技術も・・・はぁ・・・幸せ・・・」

佐保の顔は、薔薇色に輝いている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み