第296話奈々子は大泣きになるけれど、評価は厳しい。

文字数 1,616文字

ただ泣くだけの奈々子を見て、香苗は可哀想には思うけれど、それ以上に情けなさを強く感じる。
「何故、大旦那が厳しくお怒りになっておられるのか」
「それも奈々子は、本当は理解しているはず」
「それを、厳しく叱られたから泣く、こんな子供じみたことをする」
「奈々子は結局、自分が可愛いだけや」
「麗ちゃんの苦しさも、痛みも、悲しさも、何もわかっとらん」
「宗雄に麗ちゃんが折檻されても、止めることも出来ず、かばうこともせず」
「あんな可愛くて明るかった麗ちゃんを、あそこまで暗い顔にしておいて」

美幸も、奈々子を厳しい顔で見ている。
「うちのせいで、麗ちゃんが恵理と結に折檻されている時も、能面みたいな顔で見ているだけやった」
「何の辛そうな顔もせんと、ただ見ているだけ」
「それに大旦那と麗ちゃんの心配で、引っ越しから何から心配されておいて、それで大旦那と麗ちゃんを責めるようなことを」
「大旦那と麗ちゃんのせいで、うつ病になったとでも、言いたいんやろか」
「こんなんじゃ、麗ちゃんに報告できん、ますます、麗ちゃんが苦しむだけや」
「麗ちゃんが苦しめば、九条も京も困るんや」
「これ以上、麗ちゃんの足かせには、なってはあかんのや」
「でも、奈々子さんは、そんなことは、何も考えとらん」
「ただ、自分が叱られて辛いから、こうやって人前で泣く」

桃香が、香苗と美幸に目配せをした。
香苗は桃香の意図が不明。
「桃香、何?」
桃香は、香苗に耳打ち。
「香苗さんと美鈴様に、少しお願いが、できれ蘭ちゃんが帰って来る前に」
美鈴も頷く。
「うん、奈々子さんの聞こえない所でかな」

泣くだけの奈々子を部屋に残し、桃香と香苗、美幸は隣の部屋に入った。

桃香
「この状態で奈々子おばさんは、東京では暮らしていけないと思うんです」
「蘭ちゃんも心配で、学校にも行けない」
美幸も深く頷く。
「私も無理と判断しています」
「大旦那の厳しい言葉もあったのですが、それで相当なショック、うつ状態に」
「家政婦も考えていたほどです」

香苗は美幸に頭を下げた。
「本当に申し訳ございません、花園家の美幸様に、こんな醜態を」
「もともとは、奈々子の不徳なのですから」

桃香が、美幸の顔を見た。
「奈々子おばさんを、治療目的で施設に預けられないでしょうか」

美幸は、少し考える。
「うーん・・・そこまでの状況か・・・でも症状が進行する懸念はあるかな」
「預けられないことはないよ、それは大丈夫」

香苗は、桃香の意図を察した。
「そうなると、蘭ちゃんが一人になるから、桃香が一緒に住むの?」
桃香は、真面目な顔で頷く。
「悪いけれど、今の奈々子おばさんと、これから症状が進むかもしれないことを考えると・・・まだ私のほうがいいかなと」
「もちろん、蘭ちゃんにも納得させる」
「香料店の晃さんにも、相談しなければならないけれど」

美幸は、大旦那への説明は難しくはないと考えた。
元々が、麗と奈々子を切り離したくて仕方がないのだから。
ただ、麗が、この話を聞いた時に、どう思うのか、それが気になる。

美幸は、香苗の顔を見た。
「大旦那はともかく、麗様がどう思うのか」
「とにかく責任感が強い人です」

香苗も、深く頷く。
「ほんまです、顔には出しませんが、深く心配する人」
「だめな義理の母とはいえ、長年一緒に暮らしたからとか」
「蘭ちゃんのことも、相当心配しているはず」
「そうかといって、一緒に暮らすことは、大旦那をはじめとした九条家は認めない」
「何しろ、結局は、麗様を苦しませてきただけの奈々子です」
「これ以上の苦しみや悩みを味合わせたくないはず」
「これ以上、足を引っ張らせたくないだろうし、麗様も特に京都での期待が大きい」
「それを、こんなことで、話が滞れば、麗様だけの不幸ではなくて、九条家も京都も不幸になるだけです」

奈々子がいる隣の部屋から、泣き声が聞こえなくなった。
桃香が、ドアを開けて様子を見て、報告。
「奈々子おばさん、スヤスヤと寝ている」

香苗と美幸は、深いため息をついている。
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