第63話「母」奈々子の思い

文字数 1,260文字

麗が高橋麻央の自由が丘の実家で源氏物語の継子問題について検討を始めている時間、吉祥寺の料亭女将香苗と、麗の「母」奈々子は深刻な話になっている。

香苗
「なあ、麗ちゃんの荷物を片付けるって、どういうことや」
「麗ちゃんが帰る家も部屋も無くすってことなんか?」
奈々子
「うちの実家に入るか・・・養子としてな・・・」
「まあ・・・九条のお屋敷が・・・本当なんやけど」
香苗
「香料店の跡継・・・それなら、ある程度はわかるけどな」

奈々子は涙ぐむ。
「麗には悪いと思うけど」
香苗
「どうやって、それを麗ちゃんに言う?」
奈々子
「うちの旦那は、切れて・・・いい厄介払いとか言っとる」
「だから、うちの旦那が言うかもしれん」

香苗の声に怒りがこもる。
「厄介払い?ありえんやろ・・・そんなの・・・」
「奈々子には悪いけどな、あんたの旦那、どれほど九条の大旦那と、奈々子の実家に大恩を受けたか・・・」
「出世から、金から、九条と奈々子の実家が全部手を回して・・・」

奈々子
「そんなの恩義に感じる人やない、単なる口封じやって、いつも言っとるもん」
「麗を引き受けたんやから、それは当然とか」
「まるで・・・男とは思えんことも多い・・・イジイジしてな」

香苗
「時々、麗ちゃんを突き飛ばすのを見たけど・・・」
奈々子
「・・・うん・・・隠れてな・・・あの人、麗に何をしとるかわからん、おそらく暴力で憂さ晴らし、それも小さな子供の麗に」
香苗
「義理の父も何も・・・血縁がないか・・・でもな・・・それが大の男のすること?人としてあかんよ」

奈々子
「麗は・・・何も言わんし・・・怪我していても、転んだだけって」
「おそらく・・・うちの旦那が手を下したと思うけれど」
「涙も流さん、子供のころから」
香苗
「なあ、蘭ちゃんも、桃香も心配しとる」
「どない説明する?」
奈々子
「蘭は・・・麗が養子なのは気づいとる、血液型で簡単にわかる」
「おそらく桃香ちゃんも、そうやろ」
香苗
「麗ちゃんも、実は知っとるかもな」

奈々子
「うちの京都に実家に・・・戻れればいいけれど」
香苗
「九条のお屋敷が当然やけど、恵理さんも結さんも、何をするかわからんし」
奈々子
「全ては、九条の大旦那と麗の話かな、結果はわからん」

香苗も涙ぐむ。
「麗ちゃんかて・・・やりたいこともあるやろ・・・」
「麗ちゃんが何をした?何の悪いことをした?」
「可哀そうすぎる・・・麗ちゃん、やさしい子なのに」
奈々子
「伝統やら面子やら・・・そればかりで・・・人の気持など何もない」
「人の命も、伝統と面子の前には、軽いもんや」
「多少の苛めがあったところで・・・」

香苗は、激しく泣きだした。
「なあ・・・奈々子・・・それで・・・ええんか?」
「麗ちゃんを手放して・・・ええんか?」

奈々子も涙があふれて、言葉がもつれる。
「いやや!・・・麗は・・・うちが育てた子や!」
「九条のお屋敷と、うちの旦那から・・・」
「傷を負わされ抱きしめて、うちが涙流して、あやした子や・・・」
「どの家に・・・渡しとうない!」
「麗が・・・可哀そうすぎる・・・」

香苗と、「母」奈々子の話は、長々と続いている。
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