第144話麗が気付いていた「計画」、九条家使用人の素養

文字数 1,229文字

麗は突然、茜に頭を下げた。
「姉さま、いろいろ、ありがとう」
茜は驚いた。
「麗ちゃん・・・どうしたの?」
麗は、うつむく。
「恵理さんとか、結さんとか・・・追っ払ってくれたのかなと」
茜は、また驚く。
「麗ちゃん、気付いとったん?」
麗はうつむいたまま。
「それはそう思う」
「僕が大学に入ってから、動き出したの?」
「隆さんのことはともかく」
茜は、少し笑う。
「まあ、そんなもんや」
「うちの母さんとタイミングを見て」
「恵理が海外旅行、豪遊旅行や、数か月」
「どうせ、ロクでもない旅行や」
「飲み続け、クスリをやっとるとも薄々な、知っとった」
「でな、馴染みの刑事にカマかけて」
「そしたらフィレンツェで、とうとうボロを出した」
麗は、顔を上げて窓の方を見る。
「それに宗雄が、それも気付かず呼び出され、フィレンツェに」
「宗雄も一蓮托生でお縄か」

「まあ、恵理も宗雄も日本にいない時期がチャンスや」
「そこでは九条なんて通用せんし」
「そして、麗ちゃんも東京でフリーやし、タイミングが合う」

「結の放り出しも、このタイミングで?」

「もちろんそうや、邪魔者がおらん時に」

麗は大旦那も加担してとの計画と思う。
そうでなければ、大学に入って一か月、連休中に「どうしても面前で話をしたい」で、九条家後継の話などを、大旦那がする理由がない。
「仕組まれていたのか」と思うと、恐ろしさも感じる。
「江戸の敵を長崎で討つ」ではないけれど、実に時間をかけた、「恵理、結、宗雄」に対する復讐か、あるいは始末の後に、麗を九条家に迎え入れる話になる。
「時間をかけても、収まるべきところに収まるしかないのか」と、重い運命のような宿命のようなものも感じる。

少し黙り込んだ麗を、茜が横抱きにする。
「なあ、麗ちゃん、さっき話した使用人のことやけど」
麗は、ぼんやりと茜の顔を見る。
「姉さま、それはさっき、慎重に見極めてと」

茜は、腕の力を強めた。
「うーん・・・それも、そうなんやけど」

「姉さま、何か考えがあるの?」

茜は恥ずかしそうな顔。
「古文に詳しい麗ちゃんに言うのも何やけどな」

「うん、聴くよ、姉さま」

「あのな、しっかりと枕草子とか源氏とか、古文から現代文、洋書まで、わかっている人がええなと」

麗は、少し考える。
「となると、そういう文学的な素養を持った人を集めたいと?」
「うーん・・・中宮定子と清少納言のサロンみたいな?」
茜の顔がパッと輝いた。
「その通りや!さすが麗ちゃんや」

麗は、少し首を傾げる。
「ここは九条家、そういう素養を持った使用人が多いのでは?」
「それが当たり前なのでは?」

しかし、茜は首を横に振る。
「いや・・・実は・・・それがあてにならん・・・」
「全て縁故で、何の勉強もせずに、楽々と、このお屋敷に」
「まさに態度は大きいけれど、中身は乏しいタイプばかりや」
「和歌を尋ねても、よう知りませんで、逃げるだけや」

「古文講座をするべきか、試験でもするべきか」
「簡単に首にも出来ない、リスクがある」
麗は、また考えこんでいる。
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