第395話料亭にて 政治家や女将に対して、大旦那が怒る

文字数 1,393文字

間もなくして、料理が仲居たちにより、運ばれ始めた。
麗は、途端に頭痛と吐き気が復活する。
隣に座る大旦那も、どちらかというと、不機嫌な顔。

政治家や秘書たちは、とにかく笑顔そのもの。
しかし麗は、「どうせ作り笑いだ」と判断しているので、何も気にしない。

まず、一番年配の仲居により、大旦那と麗の前に、先付が置かれた。
仲居は満面の笑顔と言うよりは、賑々しい笑顔で、頭を下げるけれど、麗はほぼ見ない。
出席者全員の前に先付が置かれ、乾杯用の酒も配られ始める。
尚、麗は「未成年」とのことで、ノンアルコールのビール。

浜村秘書が、竹田議員に目配せ、竹田議員が乾杯の挨拶をはじめた。
「このたびは、大旦那様、そして、この京の街の将来を担う麗様を、めでたくお迎えすることができました」
「皆さま、時間の許す限り、ご歓談をなされますよう、お願い申し上げます」

麗は、この挨拶の時点で、浜村秘書が九条屋敷まで迎えに来た理由を察した。
「そう言えば、ここにいる議員や首長の中で、一番選挙が近い」
「議員は、地元新聞社出身、秘書はその系列地方テレビ局の元アナウンサー」
「当選回数も、まだ一回だけ」
「それで、俺にまで顔を売ろうと思ったのか」

乾杯の挨拶が終わり、その竹田議員と浜村秘書が、ビールと酒を持ち、大旦那と麗の前に、来た。
竹田議員は、実に深く頭を下げる。
「ささ、大旦那様、ご一献」
「それから麗様、これからごひいきに」
浜村秘書は、大旦那と麗には、頭を下げるけれど、竹田議員を見る目は、薄笑い気味。

しかし、大旦那は、酒を注ごうとする竹田議員を、まず手で止めた。
そして、冷ややかな声。
「なあ、竹田、今回の仕切りは誰や」

竹田議員の顔が、一瞬にして変わる。
「あ・・・私で・・・はい・・・」
「何か、不都合が?」
この大旦那の言葉には、浜村秘書の薄ら笑いが消えた。
「大旦那様・・・何か問題があれば、おっしゃってください」
「すぐに直します」

大旦那の顔が厳しい。
「わからんか、竹田、浜村」
「お前たちは、何を考えて、京都で生きとる?」
「せっかく、お前たちが、ごり押しして来るから」
「忙しい麗の時間を都合して、ここまで来たんや」
「もてなしの基本をわかっとらんな」
「自分の選挙ばかりや、気配りのカケラもない」

大旦那の厳しい言葉と表情に、他の政治家と秘書も、ザワザワと騒ぎ出す。
また、女将や仲居たちも、不安な顔で、大旦那と麗の前で平身低頭。
「大旦那様、申し訳ありません」
「ほんま、私共の不始末で」
「政治家先生をお叱りにならんように」

大旦那の厳しい顔は、女将にも向く。
「女将、まだわからん?」
「ほんまにあかん」
「いつも、こんな仕事の仕方か?」
「しばらく来なかったら、こうまで落ちたか」
「少なくとも、先代では、こんなことはなかった」
「女将を筆頭に、人をもてなす基本がわかっとらん」
「それで祇園の料亭を気取るんか?」
「京文化を、もう一度学びなおせ」
「これ以上は、ここにおれん」
「限界や、今後は、この店についても、考えさせてもらう」

女将は、顔を真っ青にして、崩れ落ちてしまった。
この京都の街で大旦那にここまで言われてしまえば、とても今後の商売は無理。
そして、その噂は、京中に広まり、何代も後ろ指を指されることになる。

大旦那の視線が、再び竹田議員と浜村秘書に戻った。
「お前らも、一から出直しや」
「次は、知らん」

女将に続いて、竹田議員と浜村秘書も崩れ落ちてしまった。
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