第498話三条執事長の告白と麗

文字数 1,545文字

九条屋敷玄関での全使用人の出迎えは、毎週土曜日の朝と特に変わることがなく、笑顔かつ礼を尽くしたもの。
しかし、大旦那、五月、茜にあいさつのため、リビングに入った時点で、麗は「何らかの難しい問題」を感じ取る。

麗は、慎重に挨拶。
「ただいま戻りました」
「都内では、無事に過ごしました」
「また、高輪の家、至近のマンション手配の件、深く感謝いたします」

大旦那は、いつもの柔和な顔ではない。
「ああ、それはよかった」
「麗が無事なのが、一番や」
とは言うものの、苦しそうな顔。

五月も辛そうな顔。
「ほんま、麗ちゃんには申し訳なく・・・」
「いや、麗様に非があるわけでもなく」

麗が意味不明でいると、茜が三条執事長に目配せ、三条執事長が麗の前に座る。

大旦那が、麗の顔を見た。
「驚く話で、呆れるかもしれん」
「ただ、なるべく早う、麗に聞かせなあかんと思うてな」
「やはり麗にも聞いてもらわんと、不安や」
「そうでないと、昼飯も喉に通らん」

麗は三条執事長を見た。
「京都駅出迎えの時から、感じるものがありました」
「やはり何か・・・あったのですね」

三条執事長の肩がビクッと動く。
しかし、すぐには、言葉が出ない。

麗は、三条執事長に再び声をかけた。
「難しいかもしれませんが、できる限り事実のみを端的に、教えてください」
「なるべく、感情を交えずにお願いします」

麗の求めに応じて三条執事長は「端的」に事実を話した。
まず、三条執事長と奈々子は、お互いが高校生の時からの恋仲であったこと。
三条執事長が九条家の使用人として勤めだした後も、お互いの間では結婚を前提とした交際が続いていたこと。
ただ、その後は、恵理の強要があり、奈々子は宗雄と結婚、結果的に三条執事長と奈々子は引き裂かれることになった。
その後、恵理は正式な夫で九条家後継の兼弘を馬鹿にして、決して共寝がなく、宗雄と不倫の限り、三条執事長も苦々しく思っていた。
そして「事件」は、十数年前の葵祭の夜に発生した。
恵理は、正式な夫兼弘を大声で罵倒、その面前で宗雄と腕を組み、ラブホテル街に消えた。
その二人を見て、奈々子が泣き崩れた。
三条執事長としては、奈々子が可哀想で愛しくてたまらなかった。
そして、モラルも何もなく・・・お互いの思いのままに関係を持った。

そこまで話して、三条執事長は大きく深呼吸。
そして麗に頭を下げた。
「その時のことで、生まれて来た女の子が・・・蘭になります」

冷静に話を聞いていた麗の顔が、厳しさを増した。
それでも、心を落ち着け、話を整理して返す。
「確かに、恵理と宗雄が生きている間は、とても話せる内容ではなく」
「そうでなくても、簡単には、言い出せない」
「奈々子さんも、子供だった私にも蘭にも言い出せない」
「特に蘭が、そんなことを口走ると、宗雄にどんな暴力を振るわれるか」
「怪我だけでは済まない、蘭も、それをかばう私も、そして奈々子さんも」
「また難しいのは、一緒に暮らしている母が、不倫など・・・そうなると蘭は、不倫の子になる」
「こんな話を聞くと・・・なんのための家族だったのか、なんとめちゃくちゃな家族だったのかと・・・」
「今さら、文句を言っても仕方ないけれど・・・言い尽くせる話でもなく」


麗は、しばらく考えて、辛い思いを断ち切った。
「やめよう・・・もう・・・どうにもならない昔のことは考えない」
そして三条執事長の手を握る。

麗は、驚く三条執事長に頭を下げた。
「お願いします、奈々子さんと結婚して欲しい」
「奈々子さんと蘭を救うには、それが一番と思います」
「それから、蘭に父として、正式につぐないと今後の面倒を見てあげて欲しい」

五月が泣きながら麗に声をかけた。
「明日の朝、奈々子さんと蘭ちゃんが、ここに来ます」
「麗ちゃん、立ち会ってあげて」

麗が頷くと、大旦那も茜も泣いている。
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