第40話麗はようやく梅粥を食べる。

文字数 1,136文字

麗が目覚めたのは、午前3時を過ぎたところ、とにかく胃に痛みを感じる。
吐き気も強い、医務室でもらった薬が効いていたと思っていたけれど、その薬効も切れてしまったようだ。
ただ、吐き気がしたところで、そもそも昨日は、何も口にいれていない。
せいぜい、口に入れたのは薬と水くらいのものになる。

麗は、寝室から出て、桃香が温めたまま、そのままにした梅粥を見る。

「これ食べたら、絶対に吐く」
「しかし、香苗さんが来て、このままになっているのを見ると、怒るかもしれない」
「そうかと言って、食べ物を捨てるのは、問題がある」
「インスタントではあるけれど、作ってくれた人の思いを無視するほど、俺は非情ではない」

麗の視線の先には、買ったきり、何も使っていない電子レンジ。
「食べて・・・吐くなら吐くかなあ」
「その後、医務室からもらった薬を飲む」

麗は、そう思ったので、梅粥を温め、ペットボトルのお茶と一緒に食す。
「う・・・熱い・・・」
「舌、火傷しそう」
「でも・・・口は拒絶しない」

そこで思った。
「桃香には、また悪いことをしてしまった」
「よく怒る桃香だけど・・・」
「お礼のメールでもするかな」
「でも、着信拒否されているかもしれない」

麗は、それでも仕方ないと思う。
「まあ、こんな不愛想で地味な俺だ」
「桃香に世話されるほどの愛嬌はない」
「桃香は、もっとハキハキとして元気ハツラツの男と付き合うべきだ」

そこまで思った時点で、梅粥は食べ終え御椀を洗う。
そして医務室から渡された薬を飲み、麗はまた、眠りについた。

麗が再び目覚めたのは、午前7時のけたたましい目覚まし音。
胃はまだ重たいけれど、吐き気は無い。
「医務室の薬が効いたか」
と、お茶を飲んでいると、チャイムが鳴った。

麗は首を傾げた。
「何だ、こんな朝早く」
ドアを開けると、昨日は怒って帰った桃香が立っている。
そして、今もまだ、怒っている。

「あ・・・どうしたの?」
麗は、こんなことしか言えない自分を恥ずかしく思うけれど、桃香は麗には答えない。
そのまま、入って来てしまう。

「食べたんだね!麗ちゃん!」
その桃香からの第一声だった。

麗は、また押されるけれど、
「うん、三時頃食べた、美味しかった」
「ありがとう」
ここは、素直に答えるしかないと思った。


すると、ようやく桃香が、麗の顔を見た。
しかし、まだ怒っている。
「あのさ・・・昨日の態度は何?」
「いい加減にしてくれない?」

麗は、うろたえた。
何も返す言葉が見つからない。
内心では、「そんなに怒っているなら、何故、こんな早くにアパートに来る?」なのだけれど、桃香の顔は実に怖い。

桃香は、怒った顔のまま、突然泣き出した。
「うちな、麗ちゃんが好きなんや!」
「ずっとや!子供の頃からや!」

桃香は、そのまま麗に突進、むしゃぶりついてしまう。
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