第342話河合神社から糾の森へ

文字数 1,200文字

九条家の屋敷をバスにて出発した一行は、下鴨神社の駐車場に到着後、まずは河合神社に参拝。
関係筋の娘たちや、茜、蘭は「女性を守る美麗の神様」のご利益を期待するので、本当に熱心。

「規模は小さいけれど、由緒は深い」
「女性守護の神様やもの」
「ご祭神は、神武天皇の母、玉依姫命」
「この手鏡の形をした絵馬の顔に、いつも使う化粧品でメイクをして、裏に願いごとを」
「そうすると、外見だけでなく内面も磨いてくれて、美人にしてくれるとか」
などなど、いろんなことを言いながら、参拝に余念がない。

しかし、麗は、一通りの参拝はしたものの、あまり興味はない。
それよりも、鴨長明が晩年過ごしたと言われる方丈の庵の展示を見ている。

その麗に、詩織が声をかけた。
「麗様は、鴨長明に興味が?」

麗は、素直に頷く。
「よく三大随筆とかって、清少納言と兼好と並んで言われるけれど」
「文章力では、日本の中でも最高と思います」
「簡潔、淡麗、それでいて情感がある」

葵もすぐに、その話に乗って来た。
「麗様、現代語訳をなされたら?」

麗は、首を横に振る。
「それは、いらない」
「そのまま読める、徒然草より現代語に近い」
「かえって、現代語訳したほうが、雰囲気を壊す」

麗の強めの言葉に、周囲が気になるけれど、言われた葵は笑顔。
また、麗もやわらかな顔。

それでも蘭は気がついた。
そして茜にヒソヒソ。
「麗ちゃんの、ああいう言い方は、葵さんを信頼してのこと」
「それを葵さんも、もう理解しているみたい」

茜も麗と葵の様子を慎重に見る。
それでも、「まあ、ご学友だからや」と、詩織や麻友、直美、美幸に声をかける。

一行は瀬見の小川を時折眺めながら、糾の森を進む。
広さは12万4000平方メートル、本殿はその先にあるので、かなりな距離。
人の多い京都とは思えないほどの、原野のような森が、そのまま残されている。

ゆっくりと歩く麗に、銀行の直美が寄り添った。
「麗様、思い出します?」

麗は、「え?」と直美の顔を見る。
どうやら思い出せないらしい。

直美は、さらに麗の近くに。
「うちも、麗様も小さな頃、一緒にここを歩いて」
麗は、首を傾げて「はぁ・・・」と、だけ。
いかにも、心もとない。

直美は麗の手を握った。
「うちが、そこらへんで転んですりむいて、大泣き」
「そしたら麗様が、怪我したところを、ハンカチで拭いてくれて」
「その後、背負ってくれて」
「大旦那様も一緒だったかな」
「大旦那様が背負うって言われたんだけど、麗様が」

そんな話が聞こえてくるので、関係筋の娘たちは、やきもき。

茜も蘭も驚いた。
茜は、蘭を見た。
「初耳や、蘭ちゃんも知らん?」
蘭は首を横に振る。
「麗ちゃん・・・あ、麗様ならありえるけれど・・・知らなかった」
「時折晃叔父さんに連れられて、九条家に行っていたけれど」

しかし、そんな話をされた麗が、「いかにも麗」だった。
「直美さん、ここは糾の森、私よりまずは、御神恩に感謝を」と、能面で歩いている。
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