第432話政治家候補者たちとの初顔合わせ(1)

文字数 1,546文字

夕食の後、大広間にて、竹田議員の後任になる候補者4人との初顔合わせとなった。
また、麗の発案により、全ての使用人、お世話係も、同席する。
麗の考え方としては、九条屋敷に勤める人は、全て京の名家であり、一定の判断力と影響力を持つのだから、初顔合わせ後に、意見を聞くこともできるというもの。
これには大旦那がすぐにその考え方を良とし、五月と茜も異論はない。

三条執事長も、感激気味。
「こんなこと、恵理の時代には、ありえませんでした」
「恵理は、宮家の血を引く自分と結以外は、虫けらと言い切って、何の話も聞いてくれず」

ただ、麗の本音としては、国会議員候補者といっても麗には面識が無い人たちなのだから、意見を少しでも広く聴きたいというものであったけれど。

午後7時から、候補者の紹介、それぞれの挨拶が始まった。

まず、九条財団からは、総務省の現役官僚で地方自治担当の課長職。
さすが官僚らしく正確な発言、国政から得た知識や、時の政権幹部や与党との深い関係もアピールを忘れない。
「この永遠の都京都の魅力、古都の保全、観光客の安定的な誘致と良好な市民生活の融合」を主張する。

次に学園からは、大学の女性教授。
専門は、政治学で、マスコミにも多く論評を乗せている名士でもある。
「女性の視点で、京都を盛り上げたい」
「女性の社会的活動機会の確保と増進」
「京都のおもてなしの文化を、日本全体にアピールして、本物の良さを広めるべき」
など、主に「女性候補者」としての主張を展開する。

不動産からは、三十代後半の弁護士。
この弁護士も、歯切れがいい。
「無駄な歳出は、とことん削除」
「その分を、京の街の振興と、市民生活のために使う」
「公明正大に、密室政治は打破して、誰もが納得できる政策と、その遂行」

最後は、銀行から、地銀の元支店長。
まず、地域の実情に明るいことをアピールする。
「銀行家として、京都経済の健全な発展、観光産業が主になるので、それに伴う商店街などの抜かりない支援」
「観光客の期待を満たすような、地場産業の育成と保護、それが京の街を支える重要な視点」


4人の候補者の紹介、それぞれの挨拶が終わった。
それを受けて、三条執事長が大旦那に目で合図。
大旦那が話し始める。
「既に知っとると思うが、竹田議員はあまりにも酷かった」
「それ故、今後の後援はしない、だから関係筋に声をかけ、ここに集まってもらった」

候補者全員が神妙に頷くなか、大旦那は続ける。
「京都から国政に出る」
「京都のためにもなり、国政のためにもならんと、意味が無い」
「国会に出て、派閥に入り、ただ政党や派閥に命じられて挙手しているだけはあかん」
「そうなると京都からの視点だけでは、あまりにも弱い」
「京都からの視点は当たり前、それだけやったら知事の陳情と変わらん」
「何故、政府がその政策を取るのか、日本全体のこと、国際情勢も深く知っておかんと、さっきも言うたが、単なる挙手係で終わる、政党内部でも影響力が薄い」
「言葉で影響力を行使、説得できん奴は、結局金を積んで単なるリップサービスをもらうだけや」
「積んだ金に見合った効果なんて、微々たるもんや」


大旦那が語った視点が欠けていた候補者全員は、恐縮して、声も出せない。

すると、大旦那が話題を変えた。
「隣に座る麗が、都内の大学生や」
「候補者が当選して、国会に出れば、麗も近くにおる」

麗は、いきなり話を振られて、実に焦る。
「つまり、俺も都内で、この人たちと付き合うのか?」
「後援者だから、当たり前と言えば、そうなるけれど」
「ますます、自由な時間が減るではないか、実に面倒だ」

大旦那は、続けた。
「麗は、都内から京都を見て、また京都から都内を見ておる」
「聴けば、面白いことを言うかもしれん」

候補者全員の視線が麗に集まり、麗はますます困惑している。
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