第1話麗の大学生活が始まる。

文字数 1,368文字

沢田麗は、今年、大学一年生になった。
出身は、東海地方の一都市。
進んだ大学は二年生までは、世田谷の校舎、三年生からは駿河台の校舎に通うけれど、現在は、一年生のため、杉並にアパートを借り、世田谷校舎に通い始めた。

その麗は、ほとんど笑顔を他人に、見せることはない。
いつも能面のような顔で、アパートを出て、井の頭線に乗り、世田谷校舎に登校、講義を受けて、そのまま帰宅する生活を続けている。

特に周囲の学生と話す気もなく、友人もそれだからできない。
基本的に、友人など面倒なだけと思っている。
「群れるのが好きではない」
「男にしろ、女にしろ、下手に関係を作れば、面倒なだけだ」
「いいように振り回されても困る」
「そんなことより、必要な授業だけを受けて、学識と見識を深めればいい」
「コンパなど、時間と金の無駄に過ぎない」

その麗が選んだ学部は、文学部。
そのため、読書すべき本も多い。
結果として、講義の合間には、図書館にいて本を読む。
読み切れなければ、借りて帰る。
また、講義が休みの土日は、古本屋街の神保町にて本を探す。
結局、そういう学生生活のため、ほぼ、人と話すことはない。

ただ、麗は、この学生生活に実に満足している。
「とにかく、くだらない話を他人としないですむ」
「高校三年生までの、面倒くささと比べれば天国だ」
「家に帰れば家族、両親やら妹やら、うるさくて仕方がなかった」
「中学でも高校でも、黙っているのをいいことに、あれこれ話しかける男やら女やら」
「程度の低い話をしてくる前に、受験勉強をすればいいのに」
「テストの問題がわからなかったとかの話ならまだいいけれど、どこかの部活がどうのこうの、誰と誰が付き合っているとか、別れたとか、どうでもいい」

嫌な思い出も実はある。
「あのバレンタインデーって何の意味があるのか」
「由美のやつが、義理チョコなんていいながら、手渡ししたいなんて、実に困った」
「うるさいから、当分、受験に専念したいから、いらないって言ったら、大泣きされた」
「由美を気にしている余裕もなかったから、そのまま受験で上京、何日かは都内でホテル生活」
「ようやく受験が終わって家に戻れば、母が難しい顔」
「受験の結果ではない、あなた幼なじみの由美ちゃんを泣かせたの?」
「別に何もした記憶はないから、ただバレンタインデーのチョコを断ったっていったら泣かれたって答えた」
「母はまた怒った、そういうところが、由美ちゃんの気持ちをわかっていないとか」
「そんなことを言われても、由美に興味はないし、恋心などカケラもない」
「持つ必要はないし、持つことに意味はないし、そういう俺は特に持つべきではない」

麗は、その時のことを思い出すと、常に、自分自身に嫌気を覚える。
「今から思うと、由美を傷つけたとは思うし、狭量とも思う」
「実際、由美が泣いたと聞いて、それは悪いことをしたと思う」
麗の顔は、そこで極端に沈む。
「でも・・・由美に俺の心などわからない、由美には、その原因も知る理由も必要もない」

麗は、そこでそれ以上考えるのをやめた。
「由美に許してもらおうとも思わない」
「由美は由美で、もっと適した男を見つければいいだけのことだ」
「こんな俺には、そもそも恋愛などする資格がない」
麗は、そんなことを思い出した。

そして、スマホのアドレスから由美がいないことを確認して、眠りについた。
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