第38話桃香と蘭の不安な会話

文字数 1,018文字

麗の母奈々子が泣き出してしまったのを察したのか、妹の蘭に変わった。
「本当にごめん、馬鹿兄のために、苦労ばかりかけて」
蘭も泣いているような感じ。

桃香は、冷静に答える。
「うん、大丈夫や、もうすぐ起きるやろ」
「何でも大学図書館の山本さんって、やさしいお姉さんが助けてくれたみたいや」
「うちは、麗ちゃんが起きたら梅粥を作って食べさせるだけや」
「明日の朝になれば、香苗さんも来てくれるしな」

蘭は、また謝った。
「ごめんね、馬鹿兄のために」

桃香は、少し話題を変える。
「今度の土日、楽しみやな」
「ここに泊まりに来るんやろ?」
「たくさん、お話しよ」
話題を変えれば、蘭も少しは明るくなると思った。

しかし、蘭の声が浮かない。
「うーん・・・行けると思うけれど」
「まず・・・行けると思うけれど」
何やら、思わせぶりや言い方に変わっている。
少なくとも、いつもの元気ハツラツの蘭の口調ではない。

桃香は、それが気になる。
「なあ、蘭ちゃん、何かあったん?」
「のっぴきならない用事とか?」

蘭の答えは、少し間があった。
そして震える声になる。
「京都が・・・九条様の大旦那様と茜様が、父さんと母さんと話し合ったみたいなの」
「理由とか内容は・・・教えてもらえなかった」

桃香は、叔母の香苗との会話を思い出した。
「大人の事情」と言っていた香苗の言葉が、また頭の中に響いて来た。
「うちもな、香苗さんに、九条様の大旦那様と茜様が何か話したってのは、聞いとる」


「そうなんだ・・・で・・・香苗さんは何と?」

桃香の声も重い。
「大人の事情やって・・・それ以上は、言わん」


「うちの両親も同じ、何だろうね」

桃香は、麗の寝ている部屋の方を見た。
少し、影が大きく動き出したような気配がある。
蘭にそれを告げる。

「蘭ちゃん、起きたみたいや」
「お粥食べさせるわ」

蘭も即答。
「うん、わかった、先に食べさせて、ごめん」
「また、時間が出来たら電話して、父母が心配だけど、泊まりに行くようにする」

これで、桃香と蘭の会話は、一旦終わった。
桃香は、麗の寝室に向かう。

そして確かに麗は起きていた。
ベッドに座り、ボンヤリしている感じ。

桃香は端的に事実を述べる。
「部屋までは、山本さんが運んでくれた」
「その後、私と交代した」

麗は、意味不明な様子。
「山本さんは、ありがたい、運んでもらったのは覚えている」
「でも、なんで桃ちゃんがいるの?何か用でも?」

桃香は、本当に麗を張り倒したくなった。
怒りも覚えて、その顔が真赤になっている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み