第225話麗の提案 美里の反省

文字数 1,396文字

麗と佐保が香料店から姿を消して約10分後に、京都の香料店の晃から瞳に電話が入った。

「どや・・・無事に済んだか?」
瞳は、涙で声が出ない。
「晃さん、ありがとうございます、ほんま、ありがたくて、何とお礼を申したら」

晃の声はやさしい。
「ああ、そっちの話か、それは麗様と九条の大旦那様からのお話や」
「発端は、麗様が大旦那様に相談をかけられた」
「わしの香料店を含めて、瞳の香料店も、全て九条家で引き取る」
「九条財団の中の香料部門にと」
「それだけでも経営の苦労は減る」


「麗様は、財団を少し手直しする一環で、そうしたいと」

「九条の大旦那様と麗様の考えが一致したんや」
「京文化、日本の古典文化を基本に総合的に発信する文化財団にしたいと」
「バラバラに仕事しているよりは、統一性と効率化が図れる」

「そうですねえ、つい手軽な商品の販売に走りまして」
「麗様も、全般的に香りの作法が崩れているとか、申されておりました」

「そやなあ・・・それは、わしも感じ取った」

「一度、ざっくばらんに、集まって検討会をしましょうとも」

「麗様は、一つ一つ慎重で、しかも的を得ている」
「そういう検討会は楽しみや」
「麗様なら、いろいろ、間違いのない意見を出してくれる」

「そう言えば、何でも、京の和菓子店が活気づいているとか?」

「ああ、すごい騒ぎや、麗様がいろんな時代の菓子を再現したらと、その一言で」
「職人の目の色も変わるし、観光業界も、銀行も役所も」
瞳の声が明るくなった。
「そうなると、ここの香料店も、やがては九条香料店、そこで時代和菓子も?」
晃も笑いだした。
「あはは、おもろいなあ、香料店に喫茶コーナーが必要や」
「珍しい和菓子につられて、香料も買うてくれるかもしれん」

晃との電話を終え、瞳は美里に、その内容を話す。
美里は、目を丸くした。
「えーーー?麗様は、そこまで考えていて?」
「経営はどう?って聞かれたけれど」

瞳は、少しだけ顔を厳しくした。
「美里もね、ただ香料を売るきれいなお姉さんだけでは、呆れられます」
「もっと香料の勉強、経営の勉強もしなさい」
「もう少ししたら、九条香料店になるんです」
「確かに店は、安泰になるけれど」
「その分、九条の名前を汚さないように」
「その意味において、今より、知識と力量が求められるの」

瞳は、全く反論できなかった。
麗に対して、一言も、まともな応答もできなかったことは、事実。
麗の冷たい顔を張り倒したいとか、文句を言いたいと思った自分の心が、今はとても恥ずかしい。
「マジに、うちは子供やった、まるで、我がままなだけの小娘やった」
「麗様は、そんなうちを、どう感じておられたのか」
「こんなうちだと・・・恋人どころか・・・はぁ・・・情けない」

顔を下に向けた美里を、瞳は突き放す。
「少しでも麗様に近づきたかったら、もっと自分を磨きなさい」
「感情とか気持だけでは、麗様は振り向きもしないよ」
「まあ、少々のお世辞を言われる程度で」

美里は麗に、「きれいになった」と言われたことを思い出した。
その時は、耳まで赤くなるほどうれしかった。
そして、人が近くにいなければ、抱きつきたいとも、思った。
しかし、九条財団などの話を聞くと、自分が恥ずかしくて仕方がない。
「母さんの言う通りだ、もっと麗様と真面目な話ができるようにならないと、いつまでも幼なじみだけでは、自分が恥ずかしい」
美里の心に、新たな向上心が芽生えている。
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