第232話麗と直美は神保町デート(1)

文字数 1,317文字

直美にとっては、都内で過ごす、ほぼ最後の日になった。
明日は朝早く、麗と京都に戻らなくてはならない。
そして、お世話係も、来週は交代となるので、次に都内に来るのは一か月以上も先になる。
すごく寂しさがつのるけれど、麗は自分と散歩をしてくれると言う。
直美は、寂しいけれど、心にジンとくるうれしさもある。
「どこでもかまわん、麗様とデートできるなら」
そして、また別の悩みもある。
「麗様は神保町と言われて、学生街とか」
「そうなると、学生みたいな服かな」
「はぁ・・・悩む・・・」
「ジーンズだと、失礼やろか」
「ミニは・・・はしたないやろか」
散々、迷ったあげく、選んだのは花柄のワンピース。

午後1時半、麗から、「もう少しで、アパートに戻ります」とのメッセージが入ったので、ほんの少し柑橘系のフレグランスをつけ、本当にドキドキして麗の帰りを待つ。
その5分後だった。
麗が、アパートのドアを開けた。
直美は、飛びつきたいくらいにうれしいけれど、必死に我慢。

麗は、やさしげな顔。
「このまま、出ましょう、ゆっくり散歩したいから」
直美は、天にも昇る気持。
「なんと、おやさしい」
「都内に不慣れな私にお気を使って」
「一旦戻ってくれて、それからお出かけなど」

アパートを一緒に出てからも、麗はやさしかった。
軽く直美の手を握り、少しゆっくり目に歩く。
「次の駅で乗り換えます」
「人が多いので手を離さず」
直美は麗が、時々、話しかけて来るのが、本当に助かるし、うれしい。
「離してって、言われても離したくないのに」
そう思って、時々キュッと握ると、麗も同じようにキュッと握って来る。
「あかん・・・これ・・・欲しくなってしまう」
と思うけれど、さすがに人目もある、恥ずかしい。

直美がそんな状態で、神保町の駅に到着した。
そして麗と手を握り合ったまま、駅の階段をのぼると、大きな通りとビル街が見えて来た。

麗が説明をする。
「この通りが靖国通り」
「その名前から、わかると思うけれど靖国神社に続いています」
「それから、こっちの道を上ると、水道橋、後楽園ドームに行けます」
「その反対に下って行くと皇居」
「目の前が、本屋街になります」
「新刊本を販売する店もあり、古本専門の店もあります」
「出版社も数多く」

直美は、また別の意味で興奮。
「靖国神社・・・東京ドーム・・・皇居?」
「テレビとか本で見ただけの名前や」

麗は、直美の手を引き、歩き出す。
「学生街で、下町です」
「本屋街なので、お洒落ではありません」

直美は、少し歩いて麗の顔を見た。
「あの・・・料理の本を探しても?」
麗は、やさしい顔。
「はい、お付き合いします」
「新刊でも古本でも」
「古本のほうが、面白い本が安く買える場合もあります」

直美が頷いていると、麗はもう一言。
「この街で、プリア・サヴァランの美味礼賛を安価で購入しましたので、よかったらお貸しします」
直美は驚いた。
「え・・・ほんまですか?あれ・・・読みたかったんです、なかなか見つからなくて」

麗は、直美の手をキュッと握る。
「まだまだ、他にも面白い本があると思います、探しましょう」
「直美さんには、すごく期待しているので」

直美は、この言葉で、身体全体が浮くようなうれしさ。
ますます麗の手を強く握っている。
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