第205話直美の生殺し 麗は無関心、全く別次元のことを考えている

文字数 1,432文字

直美は麗の身体を洗いながら、頭がクラクラとなる。
「あかん、マジに」
時々、自分の身体を見る麗の視線にも、甘美な快感を感じる。

「麗様、恥ずかしいです」と言うけれど、視線が外れるのも、不安。
「次の女の子は誰やろ・・・今頃、五月さんが決めとるやろか」
「うちより・・・その子のほうが良かったら、どないしよ」
そんな不安ばかりが募るけれど、麗には何と言っていいのかわからない。

「まだ、何人も順番でお世話係や、誰がどうとも・・・」
これでは、すでに麗に惚れてしまっている直美の心の苦しさには、何の癒しにもならない。

それでも身体を寄せれば、麗は柔らかく抱いてくれる。
そして、麗の指のかすかな動きで、単なる愛撫とは思うけれど、それだけで極楽に飛びそうになる。
「これじゃ、湯女にならない、お世話係にならん」
「うちが先に気持がよくなって、どうするんや」

風呂から出て、着替えも終わり、麗は部屋に入った。
そして、特に用もないので、出て来る気配が何もない。

直美は、身体がうずいて仕方がない。
「寝る時ならいいけど」
「読書やら勉強やらしとるかも」
「あるいは九条財団の原稿を書いているのかな」
「それを邪魔は出来ん」
「夫婦かて、そんな邪魔はためらう」
「うちは、お世話係がせいぜいやろな・・・悔しいけど」
「財団の葵さんも可愛いし・・・格上やし」
「それを思うと、いっそう欲しくなる」
「マジで・・・生殺しや」

しかし、身体がうずいたところで、直美はあくまでもお世話係。
懸命に家事をこなし、麗がベッドにはいりそうな気配をうかがうしかなかった。


麗は、直美の、そんな状態には関心がない。
珍しく、源氏物語を考えていた。
それは、「匂宮と薫のキャラクターは、何に由来をするのか」というコアなもの。

「匂宮は、自由奔放、思った通りに女を口説けて、その心を簡単につかんでしまう」
「さすが、光源氏の孫そのもの、わかりやすい」

麗の思考の対象は、薫に移る。
「紫式部も実に厄介なキャラクターを作ったものだ」
「女三宮と柏木の密通の子か」
「常に世間体を気にするタイプ」
「匂宮には、強いコンプレックスを持つ」
「出生の秘密を知り、いつかは暴露されるかもしれないという不安」
「母親の女三宮は、ふわふわとして頼り甲斐はない、相談も出来ない」
「父親の柏木は、光源氏に睨まれ、心労死」

「仏道の師匠とか、語らい相手とした八の宮の宇治の屋敷で姉妹を発見」
「表向きは姉妹の後見人、つまり落ちぶれていた八の宮への生活資金援助」
「内心は姉が欲しくてならない」
「それが高じて、一晩隣で寝ても、手出し一つ出来ないほどの、恋愛下手」
「恋愛下手なのを、仏道のためとかで、誤魔化すとか、そんな女に簡単に見透かされる言い訳を言う、呆れられるのも仕方がない」

麗の頭に浮かんだのは、光源氏の兄である朱雀帝。
「天皇でありながら、人気は全て源氏に奪われ」
「寵妃の朧月夜も寝取られ」
「母の弘徽殿女御に迫られて流罪にしようとすれば、それも先を越されて自主退去」
「光源氏が京都を去れば、世間は乱れ」
「おまけに、父の桐壺院が夢に出てきて、責められて目の病に」
「光源氏が戻ることになれば、京の街は大喝采」
「この兄は、全く立つ瀬がない」

麗は、思った。
「そうか、薫は朱雀院の孫でもある」
「女三宮が朱雀院の娘、女三宮の子供が薫か」
「だから、何をやっても、匂宮のようにスムーズに話が進まない」
「これ・・・高橋麻央と日向先生に聞いて見ようか」
麗は、自分からは珍しく、古典文化研究室に出向く気になっている。
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